第3章 影武者と雪の鐘

第25話 課された問題

 本物サマ、もといディスカード卿は地方領主だ。

フォルスートの山間部を領地として治めている。


 前の領主──本物サマの親父が殺されたり本物サマの具合が長いこと悪かったりしたせいで領民の生活が苦しくなった時期はあるが、王位継承を巡るイザコザを解決した功績で本物サマの爵位が上がった今では衣食住に困る奴の数が相当減った。


──そう、減っただけでいなくなったわけじゃない。

 明日どころか今日の飯にありつけるかさえ怪しい状態の奴はまだいる。

 例えばそう、寒くて薄暗い路地裏に。


「やっぱりここにいたか」

「シフにーちゃん……?」

「スノーベルに戻れよ、院長も他の奴らも心配してたぞ」

「や、やだ!大飯食らいのおいらが戻ったら院長がまた腹ペコで倒れちまう!」


 それが飛び出した理由か。


「我慢も出来ないおいらがいなくなれば皆腹いっぱい食べれる、だから!」

「ここで飢えて死ぬつもりだった、ってか?」

「う……」


 鈍臭いこいつにこそ泥の真似事なんて出来やしない。

 すぐ捕まってスノーベルに突き返されるのが目に見えている。


「いっちょ前のことを言う元気があるなら畑仕事でも手伝ってスープに入れる野菜の量でも増やしとけ」

「……野菜よりお肉が食べたいよぉ」

「そこは妥協しろよ……」


──という一悶着があった後。


「あの子を連れ戻してくださってありがとうございます、領主様」

「礼なら僕ではなく彼に」

「脱走したガキ一人連れ戻すぐらいどってことねぇよ」

「いいや、あの子が戻って来たのは君が説得してくれたお陰だよ。ありがとう、シフ」


 そう改まって言われるとむず痒くなる。


「それはそれとして、曲がりなりにも医者やってた人が栄養失調で倒れちゃ世話無いですよ、院長先生」

「ははは、耳が痛いですね」


 笑い事じゃねぇだろ。


「──で、どうにかなるのか?」

「この孤児院……スノーベルが抱える問題は今すぐ解決できるものじゃないよ」


 そりゃそうか。


「だからと言って見捨てるつもりは無い。君の要望はきちんと叶えてみせるとも」

「よろしく頼むぜ、本……領主サマ」

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