第16話 厄介事の分配

「まずは私の嘆願を聞き入れてくださったことを心より感謝します」


 ご丁寧なこって。


「リィン様、貴方がもっと早いうちに妹を始末していればこんなことにはならなかったのではなくて?」

「あ、姉上!?」


 うーわ、いきなり容赦ねぇなお嬢様。


「……ふふっ、」

「何がおかしいのかしら?」

「これは失敬。傑物と謳われるヒロイック家のご令嬢が詮無きことを仰るものですからどうにも堪えきれず」 

「ファタール卿まで何を言ってるんですかー!」


 板挟みにされてる弟クンが不憫過ぎる。


「重々承知しております。このような糾弾はとうの昔に聞き飽きておられるであろうことぐらい容易に想像できますもの」

「されど言わずにはいられなかった、と」

「これでようやくスッキリ出来ましたわ。さ、本題に入りましょうか」

「傍若無人が過ぎますよ、姉上〜……」


 全くもって同意見だ、弟クン。


「ディスカード卿やハイホース卿はよろしいのですかな?」

「ええ、あなたに聞くべきことは全て聞き終えていますので」

「強いて聞きたいことがあるとすれば我々に何をさせたいのか、ですね」

「では単刀直入に言いましょう」


 一瞬で空気が変わった。

 さっきまで威勢が良かったお嬢様ですら縮こまってやがる。


「ターサ王女殿下とミュンツェ王女殿下に謁見し、問題の対応に当たってもらいたい」

「──何故、そのお二方だけなのですか?」

「結論から言えば私自身が出向くことを許されなかったからです」


 また妙な話だな。

 向こうからすりゃ一秒でも早く呼び出したい奴だろうに。


「狂乱状態に陥っているターサ王女殿下はまだしも、ミュンツェ王女殿下との謁見すら許されなかった理由が分かりません。あの方が婚約者の失踪に心を痛めている、という話を聞いた覚えは……」

「逆転のチャンスを与えないため、でしょう?」


 いやどういうことだよ。


「ミュンツェ王女殿下にとって今は最大の好機。政治的手腕に長けた婚約者という切り札さえ失っていなければ玉座を我が物にしていた筈だった」

「あの方が王位を継ぐことに反対する勢力からすれば失踪した婚約者の後釜になり得る人物は誰一人として近づけたくない、ってことだね」


 ああ、なるほど。

 要するに事態が収束するどころか悪化しちまうから大人しくしてろって言われたのか。


「というわけでミュンツェ王女殿下との謁見及び問題への対応はわたくしが請け負いますわ」

「いや何がというわけで、なんですか姉上!」

「言っておくけどこれは貴方のためでもあるのよ、ホーラ」

「ぼ、ぼくのため……ですか?」

「ミュンツェ王女殿下が失踪した婚約者の後釜を求めていることを知ったらお父様は何をすると思う?」

「問答無用でぼくを突き出しますね!」

「つまりそういうことよ」


 ひでぇ、問答無用って即答できちまうあたりが特にひでぇ。


「ポート様、ターサ王女殿下の方はお任せしてもよろしくて?」

「──ああ、そうだね。そちらは僕が引き受けよう」


 おいおいマジかよ、一番ヤバいの押し付けられたぞ。


「時にファタール卿、ロッド王子殿下とルクトー王子殿下への対応はご自分でやられるのですか?」

「無論そのつもりです」

「ならばルクトー王子殿下の方は私が受け持ちましょう。少々気がかりなこともありますしね」


 何だよ気がかりなことって。


「……なるほど、そういうことでしたらハイホース卿に委ねましょう。くれぐれも、慎重に」

「分かっておりますとも」

「じゃあやることが無いぼくは留守番をっ、」

「貴方の仕事は情報収集よ」

「分かりました!全身全霊を尽くしてやりますから離してくださいだだだだ!」


 メチャクチャ痛そうだな、お嬢様に抓られた弟クンの手。


「影武者くん、君の仕事も情報収集だよ」

「へいへい」


 そういう一見地味な仕事が一番しんどいんだよなぁ。

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