第2章 影武者と涙の冠
第15話 今なお残る悪意の爪痕
俺の名前はシフ。
紆余曲折あってディスカード家の令息ポートの影武者になった元こそ泥だ。
理不尽女……もといファタール家の令嬢メロゥが謀殺されてからはや二ヶ月、社交界は混迷を極めていた。
ある家の令息は理不尽女の後を追って崖から飛び降り、またある家の令嬢は理不尽女の兄貴ことリィンに罵詈雑言を吐けるだけ吐いた後に寝込んだ。
そして極めつけが──
「あの理不尽女、王族にまで迷惑をかけてやがったのかよ……」
「被害者は王位継承権を持つ四人のうち三人……序列が最も低いルクトー王子殿下以外だな」
「リューイ、具体的な被害状況は?」
「妹様を妻に迎えようとしていたロッド王子殿下は傷心の勢いで飛び降り自殺を図ろうとするも周囲に止められて失敗」
初っ端から情報量が多い。
「妹様に夫を殺されたターサ王女殿下は復讐の機会を逸して発狂」
ツキが回ってこなかったのか、可哀想に。
「一見ノーダメージのミュンツェ王女殿下は訃報が届いたその日に婚約者が失踪」
多分死んでるだろうな、その婚約者。
「……若当主はどこまで見越してたんですかね」
「今起きてることのほぼ全てと思って良いだろうね」
「堪忍袋の緒が切れたって話はどうなったんだよ」
「今となっては敢えて残した同情の余地と考えるのが妥当かな」
「同情?」
「その方が事を手早く収められるという計算に基づいた立ち回りをしてたってことだよ」
どこまでもおっかねぇ奴だな。
「とはいえ流石に戴冠式と婚約発表に待ったをかけたことで生じた問題はファタール卿一人の手に負えるものでは無さそうですね」
「彼が手を下さなければより酷い未来が訪れていた可能性が高かったとは言え、これはこれで大事だからね」
「だから助けを求めてきたんだろ?」
正味な話、俺たちに何が出来るか皆目見当がつかねぇけど。
「うまく立ち回れば王族と良い縁を結べるかもしれないよ」
「危険地帯に放り込まれる側の身にもなれっての」
「いや、今回影武者くんには従者の立場で同伴してもらうよ」
おっと、そのパターンか。
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