第9話 四回目の晩餐会

「よう影武者、貴族の飯には慣れたか?」

「腹を壊さなくなった」

「そりゃあ良い。一口目で卒倒されかける初心な反応も悪くは無いが、綺麗に平らげてもらう方が料理人冥利に尽きるってもんだからな!」

「そういうもんなのか?」

「少なくとも俺はそう思うぞ」


まぁ分からなくもないというか、想像はつくというか。


「持ち場を離れて雑談に興じるなんて感心しませんね、料理長」

「うお婆様、いつからそこに」

「仕込みは終わっているのですか?」

「そりゃあ勿論、でなきゃ厨房を離れませんよ」

「……そういうことなら大目に見ましょう」


流石、付き合いが長いだけあって対応が手慣れてるな。


「さて影武者殿、今日は乗馬の訓練に励んで頂きますよ」

「へーい……」

「返事は短くハッキリと」

「ハイ」

「宜しい」

「終わったら差し入れに菓子でも持ってきてやるから頑張れよー」


そんなこんながありつつ迎えた四回目の晩餐会。


「あいつの予想通りなら今日のパーティーで何かが起きる筈だ」

「本当に当たるのかよ、その予想」


今のところどこをどう見てもいつも通り──


「ん?」

「どうした」

「向こうのバルコニーにいるの、マウント野郎だよな」

「……そうだな、誰かを待っているように見える」


近くにいるのはマウント野郎の付き人辺りか。


「罠……にしてはあからさま過ぎるか」

「気になるのか?」

「引っかかりに行っても良いなら今すぐ行きたいくらいには」

「行くからには成果を上げろよ」

「りょーかいりょーかい」


さて何が起きるかな、っと。


「あーお前!人を呼び出しておいっ」

「なんっ、」


一瞬、何が起こったのか分からなかった。


「若君!」

「クソッ、こういうパターンかよ!」


妙に遠いところから聞こえてくる声でようやく状況を理解した。

突き落とされたのか、俺もマウント野郎も。


「っ痛……」

「おい無事か!?」

「服がズタボロになった以外は」

「それくらいなら必要経費だと婆様も許してくれる!」


トピアリーに落ちたのは運が良かったのか悪かったのか。


「若君、お怪我はありませんね?」

「あ、ああ……助かったよパティ」


あーうん、あっちは大丈夫そうだな。


「にしてもすげぇなあっちの付き人、本人も抱えたマウント野郎も無傷だ」

「オレだって出遅れなければあれくらい……」


張り合うポイントなのかよ、そこ。


「ディスカード卿は歩けますか?」

「ああ大丈……いてて、」

「無理をするな、安全なとこまでオレが運ぶ」

「でしたら共に来てください」

「分かった」

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