第8話 幕間 ファタール家の話

「ねぇおにいさま、先日の晩餐会で初めて見かけたあの方はだぁれ?」


 先日の晩餐会が初対面という条件に該当するのは──ディスカード卿か。


「ああ、お前が知らないのも無理は無いか。彼は病気がち故に社交界へ顔を出すことが殆ど無かったからな」

「ふぅん、そうなの」


 まぁあの日パーティー会場にいたのは影武者の方だが、それをわざわざ教える必要は無いだろう。


「何か気になることでもあったのか?」

「あの方、わたしを無視したの」

「声をかけたのか?」

「ううん、目配せをしただけ」


 やれやれ、またいつもの悪い癖か。


「なら単に気が付かなかったのだろう、お前の周りには人だかりができていたからな」

「……あぁ、そういえばそうだったわ」


 所詮はその程度の関心か。


「お前の目移りは相変わらずだな」

「だって気になるものがあったらそちらを見てしまうでしょう?」

「否定はしないが程々にしておけ、お前の目移りが原因で諍いが起きたばかりだろうに」

「まぁおにいさまったら酷い、邪魔者を消してあげたのにわたしを悪者扱いするの?」


 またいつもの責任転嫁が始まった。


「……メロゥ、そろそろ部屋に戻れ。夜更かしが過ぎると肌が荒れるぞ」

「はぁい、おやすみなさいおにいさま」


 ああ全く、面倒極まりない愚妹だ。


「……あの愚妹はどこまで貴女に似ていくのでしょうね、母上様」


 見上げた先に飾られた肖像画の貴婦人は嫋やかに微笑んでいる。

──あの女の何をどう見たらこんな絵を描けるのやら。

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