第6話 襲来!傑物令嬢ディアナ+α
それはある日の昼下がりのこと。
「なぁ本物サマ」
「んー?」
「さっきから何を読んでるんだよ」
「許嫁からのラブレター」
「……ハァ!?」
あのお嬢様、そんな殊勝なこと出来たのかよ。
「っていうのは冗談で、近々うちを訪問する旨が綴られた手紙だよ」
「いやそれはそれですぐに教えてくださいよ!」
「ごめんごめん、もう読み終わったから婆やのところに持っていいよ」
「失礼します!」
本物サマから手紙を受け取るや否や、ガタイが良い方の使用人は慌ただしく飛び出して行った。
「……で、じっくり読み込んでた本当の理由は?」
「送り主の思惑を探っていたのさ」
「つまりお嬢さんが送ったものではない、と」
「代筆なのは当然として、彼女らしさが一切読み取れない文面だったからね」
それをラブレター呼ばわりとか何考えてんだこいつ。
「……それはそれとして本当に来るのか?あのお嬢様」
「間違いなく来るよ、不本意ではあるだろうけどね」
「下手に噛み付いたら立場が危うくなりますからねぇ」
「好き勝手やってるようで案外そうでもないんだな」
「令嬢ゆえの苦難、というやつだよ」
難儀なこって。
「ところで坊っちゃん、影武者くんはどこに隠れてもらいます?」
「そこの判断は婆やに任せるよ」
「あの婆さん苦手なんだけどな……」
「言う通りにしてれば悪いようにはされないから安心しなって」
そして迎えた当日。
「ポート様、突然の訪問になってしまったことを心よりお詫びいたしますわ」
「こちらこそ遠路はるばるお越しいただき感謝の念に堪えません」
「……社交辞令はここまでで良いわね」
「そうだね」
毎度のことながら切り替えが早いな。
「ところでそちらの彼は?」
「愚弟のホーラですわ。ほら、挨拶なさい」
「は、はじめまして……」
「どうやら緊張しているようだね」
まぁ無理もない。
彼にとってここは敵地のど真ん中同然の場所なのだから。
「……そこの貴方」
「っ、」
「この子を庭園に案内してもらえるかしら?こう見えてガーデニングが趣味なのよ」
「ああ、それは良い。好みに沿うものを見れば強張った心も和らぐだろうしね」
「かしこまりました」
──さて、と。
「ディアナ、早速だけどお茶会をしようか」
「ええ、本来意味など微塵も無いものに少しばかりでも価値をつけましょう」
「毎度のことながら仲が良いのか悪いのか分からんな、うちのご主人とそっちのお嬢様は……」
「相性が悪ければとうの昔に婚約破棄してますよ」
「……それもそうか」
──一方その頃。
「着きましたよ」
「わぁ……綺麗……」
「……ようやく辛気臭い顔じゃなくなったな」
目深に被っていた帽子を外した反応は、まぁ予想通り。
「えっ……どうしてあの人と同じ……」
「姉貴から聞いてないのか?俺は影武者だよ」
「影武者……そっか、だから姉上は君を……」
「……あんた、向いてないからやめた方が良いぞ」
「な、何だい突然」
「本物サマを殺しに来たんだろ?」
そう告げた途端、弟クンはがくりと膝をついた。
「──はは、全部お見通しってことですか、姉上……」
「ったく、とんだ面倒事を押し付けてくれやがったなあのお嬢様……」
下手に慰めるより気が済むまで泣かせた方が良いな、これは。
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