第5話 幕間 ハイホース家の話
「兄様が執務室に籠もってからどれくらい経った?」
「間もなく8時間を越えます」
「ああもうまた働きすぎてる……!」
今から約8時間前、つまり朝食を摂って以降はずーっと執務室に籠もって仕事をしていたということだ。
「若君、紅茶と軽食をお持ちしました」
「風呂の支度は?」
「ティーポットを空にする頃には整います」
「よし」
後はベッドメイクの指示を手隙の奴に──
「まーた始まったよレオン様の大ハッスル」
「普段からあれくらいバリバリ働けたら旦那様も見直しそうなのになぁ」
わざとか、わざとだな。
だったら望み通りの対応をしてやるよ。
「そこ二人!無駄話をする暇があったらこっちを手伝え!」
「は、はいぃ!」
ようやく着いた執務室のドアを軽くノックする。
──返事が無い。
「モンド兄様、入るよ」
「ん?ああ、外が騒がしいと思ったらお前か」
うわぁ、これは大分キテる。
早急に休ませないと。
「お前たち」
「はい」
「兄様から仕事道具を取り上げて」
「かしこまりました」
「あああ待ってくれその帳簿はまだ半分しか」
「問答無用!」
「あああああ」
──それから諸々あって。
「ひと心地ついた?兄様」
「ああ、お陰様でな」
サンドイッチ、もう4個は必要だったかな。
もしくは大きいのをドカンと。
「紅茶をお注ぎします」
「いつもすまないな、妾腹の私如きに……」
「そうやってすぐ生まれのことを持ち出すのは兄様の悪い癖だよ」
「し、しかし……」
「そりゃあ父様の依怙贔屓は目に余るし、母様の不満も分からなくはないけどさ、僕にとって兄様は自慢の兄様なんだ。それを他でもない兄様が貶さないでほしいな」
「……すまない」
「とりあえず謝るのも兄様の悪いとこー」
本当に困った兄様だ。
そんなだから放っておけないんだけどさ。
「何でこの兄思いの良い人がひとたび外に出ると嫌味なマウント取りになっちまうかなぁ……」
「若君に相応しい世間体がそれだから、ですよ」
「つまり旦那様のせい、と……」
「オイコラ、迂闊なことを言うと首が飛ぶぞ」
「……今回は見逃してあげますから以後気をつけるように」
「ウッス」
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