第3話 警戒すべき三家

「はぁー……」

「やっぱりあそこのお嬢さんには速攻でバレたかー」


 ふざけんな、いつかはバレるだろうとは思っちゃいたけどこれは早すぎるだろ。


「貴族ってのはもっと脳天気な生き物じゃないのか……?」

「んー、それが多数派なのはそう。あの男だったらモテモテ間違い無しの傑物令嬢は少数派だけどね」


 まぁその評価は分からなくもない。

 あんなのがゴロゴロいたら色んな意味でヤバいだろ貴族社会。


「……それはそうと、あのお嬢様には全部話しちまって良いんだよな?」

「良いよー、坊っちゃんもこれくらいは予測済みだろうし」

「なら先に教えろよ……」


 本物サマの悪どい笑みを想像したら腹が立ってきた。

 色々話すついでにあのお嬢様から弱みの一つでも聞き出してやろう。


──なんて粋がっていられたのはほんの数分前までの話。


「事情は概ね理解したわ。貴方、運が良いわね」

「悪いの間違いだろ……」

「はいはい愚痴らない愚痴らない」


 こいつもこいつで大概性格が悪かった。

 きらびやかな見た目に反して中身が碌でもない奴ばっかり居すぎだろ、貴族連中。


「お嬢様、お戯れはそのくらいで」

「……分かっているわよ」


 助かった、寧ろもっとズケズケ言ってくれそこのメイド。


「……そうね、そちらの家が潰されて得をする者たちの中でもとりわけ大きな利益を得られる三つの勢力についてお話しましょう」

「まずあんたの家か」

「ええ、お父様は許嫁のわたくしを通してあなたの主人の生家……ディスカード家の資産を根こそぎ奪う腹積もりよ」

「……そんなこと出来るのか?」

「相続先が他に無いなら多少の無理は押し通せるでしょうね」


 あ、これは不可能だと思ってる顔だ。

 実際無理筋が過ぎる話だしな。


「二つ目はそちらと隣接する領地の主であるハイホース家……さっき貴方に嫌味な態度を取った男の家よ」

「ああ、あのやたらマウント取ってきた奴か」

「あそこの若様、ことあるごとに坊っちゃんに突っかかってくるんだよなー」


 いつもあの調子で絡んでくるのかよあいつ。


「その割に俺が影武者だって気づいてなさそうだったぞ」

「前に10人中8人は騙せるって話をしただろ?あの若様は8人の側でそこのお嬢さんは残り2人の側」

「あの男に人を見る目が無いだけよ」

「ボロクソな評価だな……」

「そもそも突っかかる理由が先祖代々からの因縁だなんてしょうもなさ過ぎるわ」

「お嬢様、酷評はそのくらいで」

「……話が大分逸れてしまったわね。最後の一つは領地の主要産業がディスカード家と競合しているファタール家」


 ようやくマトモな動機を持ってそうな奴が出てきた。


「年若い当主に代替わりを済ませ、その妹であるご令嬢が殿方たちの注目を集めていることで有名です」

「……向こうに出来てる人だかりがそれか」


 絶対に近づきたくねぇ。


「各勢力の思惑を整理しましょう。わたくしの生家であるヒロイック家はそちらの資産を奪いたい。ハイホース家は因縁の相手を仕留めたい。ファタール家は競合相手を消したい」

「……どれもこれも大概な理由だな」

「影武者くんからしたらそうだろうねー」


 金やプライドに振り回されるこっちの身にもなってほしいもんだ。


「今述べたのはあくまでわたくしの見解。実際の思惑とは大なり小なり齟齬があることは頭の片隅に置いておきなさい」

「……ちゃんと自分でも調べろってことか」

「理解が早いのは貴方の美点よ、誇りなさい」

「そりゃどうも」

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