第2話 影武者、社交界デビューする

「そういやこの屋敷、いかにも偉そうなおっさんやおばさんがいないな」

「旦那様は数年前に事故死、奥様はその更に数年前に病死してる」

「なおどっちもたまたま不幸に見舞われたわけじゃない」

「……どういうことだよ?」

「結論から言うと他の貴族に謀られたのさ」


 何だ、よくある話か。


「奥様が病気がちだったのは元々だけど、容態が急激に悪化したのはとある晩餐会から帰った直後」

「旦那様が亡くなった原因である転落事故も単なる偶然とは思えない痕跡が見つかっている」

「疑わない方が馬鹿だろ、それ……」

「その通りなんだけど大っぴらに騒ぐことはできないんだよなぁ」

「何でだよ」

「謀られたのは分かっているけど肝心の黒幕が未だ不明。そんな状態で下手に騒げば追い詰められるのはこっちだ」


 そんな中で影武者をこさえたということは、だ。


「もしかして俺に黒幕探しもやらせるつもりか?」

「釣れたら大金星ではあるぞ」

「旦那様と奥様の仇討ちは……坊っちゃんがやりたがったら遂行する方向で」


 それから紆余曲折あって迎えた社交界デビューの日。

 眩しすぎて目が痛くなるパーティー会場で早速嫌味なお坊ちゃんに絡まれたが適当にあしらった。


「わたくしと一曲踊っていただけますか?」


 次に声をかけてきたのは如何にも気が強そうなお嬢様。

 確か本物サマの許嫁だ。


「──ええ、喜んで」


 こういう手合いは雑に追い払うと後で面倒くさいことになる。

 動きが覚束ないのは病み上がりってことで誤魔化せる筈だから適当に──


「貴方、偽物ね?」

「っ!」

「安心なさい。今すぐ貴方を貶めるつもりは無いわ」


 俺の返答次第では前言を撤回するつもり満々の癖にふてぶてしい女だ。


「……要件は?」

「話が早くて助かるわ。貴方が送り込まれた理由を教えなさい」

「本物サマの家が潰されそうなのは……流石に知ってるか」

「ええ、うちのお父様がその時を待ち侘びているわ」

「……良いのかよ、そんな情報吐いちまって」

「問題なくてよ。知らない人の方が珍しいもの」


 マジかよ、恐ろしいな貴族社会。


「なら俺からも一つ質問をさせてくれ」

「何かしら?」


「本物サマの家が潰れて得をする奴は他にどれくらいいる?」

「……それなりに」

「っとと、」

「詳しい話は後ほど別の場所でしましょう。そろそろ曲が終わるわ」

「マジかよ、案外早いな……」

「悪くはなかったけどもっと練習なさい。特にリードの仕方をね」


 そう言ってこっちをさんざん振り回してくれたお嬢様は優雅な足取りで去っていった。

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