社交界は陰謀まみれ

等星シリス

第1章 影武者と毒の花

第1話 こそ泥、影武者になる

──油断した、失敗した。

 何でこんな時間まで起きてるんだよ。

 子どもだろうが大人だろうが眠りこけてる時間だろ、今って。


「このこそ泥くん……割と似てるよな?」

「似てる気がするな」

「坊ちゃん、ちょーっと横に並んでみてもらえます?」

「手を緩めたら承知しないよ」

「わーかってますって」


 それはそうとさっきから何やってんだこいつら。

 この屋敷のお坊ちゃんらしい奴と俺の顔が似てるから何だって言うんだよ。


「……で、実際どうだい?」

「双子だーって言ったら10人中8人は納得してくれそうですかね」

「ポート様と殆ど顔を合わせたことが無い相手なら騙されてくれるかと」

「なるほどね」


 いや何がなるほどなんだよ。


「さてこそ泥くん、ここで一つ提案だ」

「提案?」

「僕の影武者にならないか?そうすれば今回の件は無かったことにしよう」

「……断ったら?」

「勿論然るべき場所に突き出すとも」


 お縄につくのが嫌なら自分の提案を飲めってことか。

 悪くない話だが──


「俺があんたらを陥れる可能性は考えないのか?」

「陥れるって、どうやって?」

「ゴシップに飢えてる記者にスキャンダルのネタを渡す」

「ふむ、悪くないアイデアだ。下手にもみ消そうとすればこっちが墓穴を掘ることになる」

「こそ泥にしては頭が良い……いや、悪知恵が働くからこそ泥をやれてるってのが正解か」

「結構すばしっこかったし、こりゃー期待が持てそうだね」

「……は?」


 何で嬉しそうなんだよこいつら。

 嫌な顔をする流れだっただろ、今の。


「ますます気に入ったよこそ泥くん、是非とも僕の影武者になってくれ」

「いやおかしいだろ!破滅したいのか!?」

「実は割と破滅寸前だったりするんだな、これが」

「……どういうことだよ?」

「うちの坊ちゃん、生まれつき身体が弱くて社交界に出た回数が数えるほどしかないんだよねー」

「そのせいで家の評価がゴリゴリ落ちまくって、次の晩餐会に来なかったら家を取り潰すぞってところまで追い詰められてるのが現状なんだ」

「病欠が原因で破滅寸前になってる貴族の家とか前代未聞だろ……」


 少なくとも俺が忍び込んだ先や他の浮浪者が関わりを持った貴族の中にそんな奴がいた覚えは無い。

 あったら絶対話のネタにしてる。


「なのでわざわざタレコミなんてしなくても破滅する未来が迫ってる我が家を救うヒーローになってみないかい?」

「断らせる気なんか微塵も無い癖に何言ってんだこのクソ貴族」

「じゃあ交渉成立ということで」


 こうして一介のこそ泥に過ぎなかった俺の影武者ライフが強制的に始まった。

 飯に毒とか盛られるんだろうなぁ、この先何度も。

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