第一章【僕と先輩とドタバタ】その6

全授業が終わって放課後に入る。2年生である先輩の教室は3階、僕ら1年生の教室が4階で距離はかなり近い。

SHR後すぐに先輩の教室へと向かう、スマホを持ってくるのは校則で禁止されているから多分アポ無しなんだと思う。

たどり着いたのは3年4組、姫野さんは物怖じせずに2年生の居る教室の引き戸を開けて「お姉ー、居るー?」なんて声を出してた。

すぐに先輩が来て廊下へと姿を見せる。それがちょっと驚くことに体操着姿だった。

一瞬で目を奪われた。なんと言っても白い、いつもの黒いセーラー服と違って体操着は白色だし露出も多い。

制服は長袖だけど、体操着は半袖短パンだから肌が出る。透き通った雪原みたいな手足、それがまず綺麗だった。

しかも、それだけじゃない、髪がポニーテールになっていた。

普段は隠れてる首元が顕になって、活発的な印象に映る。ひたすらに綺麗だって、そう思う。

心臓の鼓動が手を当ててないのに分かって、視線が釘付けになる。やっぱり彼女を見ると、視線が自然と動いてしまう。

「何見つめてんだよ、おい。」

まずい、ついいつもの調子で見てしまった。すぐに目を逸らして誤魔化す。でも脳裏にはしっかり先輩の姿が残っていた。

「い、いや見てない…見てないから。」

それはもう自分でも分かるぐらいにバレバレな動きで、なんだか更に墓穴を掘ったような気がする。

そんな僕の行動に、姫野さんは目付きがもっと怖くなっていった。親の仇ぐらいじゃないとこんな目つきはしないと思う、たぶん。

「あっそ。で、お姉、金曜日一緒にこいつと帰ってたよね。」

「まあ、うん。知ってたんだね…。」

なんだか気まずそうに先輩は目を逸らす。というかちゃんと伝えてなかったんだろうな、僕との関係。

まあ、恥ずかしい話だから分からなくもないけど。

「で、こいつ曰くお姉の告白が間違いだって言ってるんだけど、本当?」

「うん、本当だね…。生徒会で劇をする話になっただけだから。変な心配かけてごめん。」

「いいの、お姉を怒りたい訳じゃないから。はあ、じゃあ本当のことなんだ…。」

仲がすごく良いんだ、この2人。僕は一人っ子だから分からないけど兄弟ってこういうものなんだろうか。

そして、これで僕が嘘をついてないって証明にもなったし一安心だ。

「よし、これでほんとだって分かったよね?別に元から嘘つく理由も無かったわけだし。」

「はいはい、悪かったわね疑って。まあ、怪しいところがないでもないけど。」

怪しいところなんてないだろうに、なんでここまでの扱いなんだろうか…。

「どうしてだ…。先輩からも言ってください、別に何も無いですよね僕ら。」

「そうだね、私が迷惑かけたってだけだから。」

効果的だと思ったから先輩に頼ってみたけど、それでも姫野さんは疑いの眼差しを向けてくる。

「妙に距離近くない?まあお姉が嘘つくわけないから良いけど。じゃ、私お姉と一緒に帰るからあんた先に帰ってて良いよ。」

最後までなんだか扱いが雑だ…。せめて名前で呼んでもらえないだろうか。まあ、良いけど。

「許可なくても帰るつもりだったよ、じゃあさよなら。」

「さよなら、須永君。」

こうしてようやく普通の学校生活が始まった。急に告白されることもなければそれに悩むことも無く、変に絡まれたりもしない日常。

それがようやく始まった、と思ってたんだけどなぁ…。

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