第一章【僕と先輩とドタバタ】その2

あれから、教科書を取りに行ったり委員会決めなんかをして放課後になった。

人がいる教室内で話すことでもないので、聡太郎に昨日のことを説明するのはこれからだ。

姫野さんとは視線が合うと睨まれたけど何も無く嫌いな人ぐらいの扱いなんだろう。

問題なのは登校2日目にして彼女が叫んだ内容はクラスメイトしっかりと覚えられていて、興味本位で聞きに来る人も居たほど。

自分じゃどうしようもないので諦めて放ってはいるけど、クラスの殆どに初日に誰かに告白された人として覚えられてしまっている。

教室内が2人だけになってから話題が昨日のことに移った。

「よし、誰も居なくなったし話すか。」

「わかった。昨日は朝の話に出てきた通り告白されたんだ。初対面だったから断ったんだけど。まあ、それだけなんだよね。」

「それだけ…?そんなことあるか?なんだそれ、イタズラかよ。」

聡太郎は納得が言ってないとばかりに首を捻る。気持ちは分かる、初対面なのに告白なんてイタズラでもおかしくない。

僕に一目惚れした、とかなら理由の説明はつかなくないけど別に僕は顔がすごくいいという訳でもない。

だからやっぱりイタズラか、もしくは何かの間違いなんて所が有り得る話だ。

とりあえず分からないことを考えていても仕方ないという結論になって、僕らは一緒に帰路に着いた。

別の話題で会話しながら昇降口へと向かっていく。聡太郎とは中学校は同じだけど登下校の仕方が違う、僕は電車で学校に行くけど彼は自転車だ。

高校に入るにあたって引越しをしたみたいでこの学校から約10分で家に着く距離に家がある。

校舎を出て互いに別れてから僕は真っ直ぐに校門へと足を進める、そして彼女の存在に気が付いた。

この学校は学年によって入る玄関が違う。横長になっている校舎にそれぞれ3つ玄関があり、1つは先生や来客者用で残りの2つを生徒が使っている。

で、その2つの玄関の学年の組み分けが2、3年生がより校門に近い方で1年生が遠い方を使う。

なので僕たち1年生だけはでる玄関が違う。

だからこそ、こういうことが起こり得る。偶然同じタイミングで下校を始めた彼女と僕がバッタリ遭遇してしまうなんて事が。

「「あっ…。」」

視線が会う。やっぱり彼女の瞳は天の川のようでつい魅入ってしまう。

でも僕らは振った振られたという関係で、このまま見つめあってる訳にもいかない。

互いにそっぽを向いてから僕は彼女の背中を追う形で学校を出る。同じく歩きみたいだから、徒歩通学なのか電車も使うかの二択。

学校の周りは住宅街だからここを抜ける前に別の道に入ってくれるといいけれど。

少し時間が経過する。風に吹かれて微かに揺れる夜色の髪を見ながら僕は歩く。

放課後から少し時間も経って遅くに下校を始めたのもあり昼の時間帯の住宅街は全くと言っていいほど人が居ない。

暖かい日差しと少し肌寒い風が僕らを包んで、木々の葉が揺れる音とお互いの足音だけが響いた。

そんな空間は、気まずい上にどうしても彼女を意識してしまう。視線を少し逸らしても進行方向に居るのだから、どうあっても目に入ってくるのだ。

それから、また数分経っただろうか目の前の彼女が立ち止まった。

ちょっと驚いて、僕も足を止める。

「······あの。少し、話さないか?」

それは予想外の提案で、どう返答するべきかも難しかった。

そもそも、ここまで何も言わずに歩いたのだからこのまま言葉を交わさずに終わるんだと思っていたし。

断る方が無難なんだろう、でも僕には気になることもあった。

それは、なぜ彼女が告白をしたのか。色々と憶測を立てても結局のところ真実を知るには彼女から聞くのが1番だ。

少し、覚悟を決めて返答をする。

「·····いいですよ。」

それだけ言って彼女の隣へと足を進める。思ったより体が緩やかに動かなくて、緊張していることに気が付いた。

彼女との距離が今までで1番近くなってどうも落ち着けない。なんだか恥ずかしくて車道の向こう側を眺めてしまう。

それなのに気がつけば彼女の方に視線が動く、そんな不思議な感情。

僕か隣に並んでからの沈黙もそう長くは続かなくて、彼女が口を開いた。

「話っていうのは、昨日の告白した事についてなんだ。」

それはまさに僕からも聞きたかった話だった。つまりこれから、告白した理由が聞けるということ。

僕と真逆の方向を向いている彼女の表情は見ることが出来なくて、ただ耳は赤く染まっていた。

もしかしたら本当に好きなのかもしれないし何かしらの間違いなのかもしれない。ただ、これから事実が聞けると思うと緊張する。

なんだか落ち着けないまま待っていると、今度はしっかりと僕に視線を合わせて言葉を紡ぐ。


「·····あの告白、間違いなんだ。」

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