② 黒皮の手帳


 東玉川警察署の捜査本部にガサ入れを終わった捜査員たちが帰ってきて、みんな集まって、証拠となる物とそうでないとを選別した。また

警科研からの報告を奥田管理官が、纏めていてくれたので、解りやすかった。先ず犯行声明に使ったパソコンと印刷機の特定が手来ていた。彼のマンションから持ってきた、パソコンと印刷機の機種と一致した。しかしこれらの機種は一般的な市販もので、決定打にはならなかった。しかし、彼の車はミニクーパーと判明し、鑑識が、車を調べたところ火薬の残差が残ったバックが見つかり、後で科捜研で詳しく調べて貰えば、佐伯部長の殺害に使われた物と同一なことが判明するはずだ。更に彼の家の下駄箱から持ってきた、スニーカーのうちの一つの踵部分から、佐伯部長の指紋が検出され、彼が履いてきたシューズの踵をつまんで揃えてやったときに着いたものだろう。決定打となった。これは所轄署の西川原係長のお手柄であった。更に黒皮の手帳もある。取り調べは西谷巡査部長に頼んであるが、問題ないだろう。そうして、取り調べ調書の作成をおこなっている間に、平滝係長は、黒皮の手帳を読んでいた。何時ものように、右手で黒髪をグルグルと揉み上げては離す事を繰り返している。そして管理官に話し掛けた。

「管理官。この手帳には内部告発をしようとしていたためか、ずいぶん詳しく金の流れが書き記されていますよ」

「そうなんだ。いや実はね、警科研からの報告書にも、会社で使っていたのパソコンの解析をして貰っただろう。あの中にもやはり金の流れを示す文章が打ち込まれていたらしいので、それを特捜部の主任に連絡したら、直ぐに飛んできてそれを見て、“これのコピーをください”と言って持って帰ったよ」

「そうですが。特捜の贈収賄事件も片付くと良いですね」そして、更に係長は手帳を読んでいたが、最後の辺りになると、

「えっ、なんだこれは❗」と大きな声を出した。

「どうかしたのかね? 平滝君!」と管理監が聴いてきたので、

「この手帳の最後に、大変なことが掻いてありますよ。読み上げますね」管理官は頷いて、横を向いた。

平滝係長が読み上げた文章は次のようなものであった。             

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「昨日、何十年ぶりだろう。どうやって調べたかは知らないが、俺のところに彼奴から電話が掛かってきた。彼奴は、俺が自衛官だった頃の同僚で、同じ思想に嵌まっていた同僚だ。俺が自衛隊を追い出された後に彼奴も直ぐに自衛隊を辞めたとは聴いていたが、何をやっているのだろう。今もあの思想にドップリと浸かっているみたいだ。何でも近畿地方の幹部にまでしているらしい。やつの話では『おい、佐伯泰三。俺だ解るだろ、俺は今”赤報隊“の幹部をやっていてな、公安から逃げ延びながら、あの信仰者を探しているんだ。確かに最近は、同士が減ったけどな、この近畿地方に見つけたんだあの精神に同意する若者に、二人なんだが、二人とも今の政府に反感を持っていてな、絶対に革命を行うんだと燃えているんだ。一人は銃の扱いが上手く、自分で組み立てることも出来るんだ。もう一人は爆弾作りが出来てな。二人とも逞しいぜ更にあの二人は、近いうちにこの近畿地方で行動を起こすと言うんだ。近いうちにテロを起こすと宣言しているんだ。楽しみにしていてくれ』なんて言っていたな。近いうちにか! 何だか俺もワクワクしてきたぜ」

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 管理官❗ 何て掻いてありますよ。近いうちにですよ❗ 大変ですよ❗


           (了) 

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平滝了一の事件簿 Ⅱ『フェイク捜査』 淡雪 隆 @AWAYUKI-TAKASHI

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