⑦ 県警捜査一課長室にて


 係長は、一課長室のドアをノックした。

「どうぞ」という声がしたので、二人して部屋にはいると、ソファーを勧められた。

「何か役に立ちましたかな?」と、一課長はが尋ねてきた。係長は、

「はい、事件簿を拝見させて貰いました。有り難うございました。しかし一点お聞きしたい事がありましたので、尋ねに参りました」

「ほう、私で解ることでしたら、お答えしたいと思いますが、どんなことでしょうか?」

「事件の容疑者についてですが、一通り事情聴取をされているみたいですが、皆さんアリバイがあったとなっていますが、一人事情聴取をおこなっていない人物がいますね。名前も載っていない陸上自衛隊員の事ですが、伊丹駐屯地の自衛隊員だ、ということですね。この人の名前と事情聴取をしなかった理由をお聞きしたいのですが。それと、自衛隊員が容疑者にあがった理由は、何でしょう?」

「そ、それは、珍しいことに、うちの公安部からの捜査上にあがったものです。『赤報隊』の関連で、上がってきた情報から容疑者にあがりました。事情聴取の件につきましては、一寸事情がありまして……」

「事情とは? 何でしょう」

「実は、私も聞いた話なのですが、当時の刑事によりますと、なんでも自衛隊のほうから断られまして」

「断られた? どうしてですか」

「彼らによると、『自衛隊には自衛隊の内部を自浄する組織があるので私たちで、事情は捜査する』とのことで、断られました」

「自浄組織とは?」

「伊丹駐屯地の中には、警務課と言う組織がありまして、更に中部本部には、中部方面警務隊本部第131地区警務隊略して『131警』があると言うことでしてな。自分達の組織は、自分達で解決する。ということなんで、私達には手が出せなかったっということです。更には陸上幕僚長からも、上のほうに圧力があったみたいで、御覧の通りの結果となりました」

「成る程、警務課ね、昔の軍隊にあった憲兵隊の名残みたいなもんですね。それでこの容疑者には手も足も出せなかった」と言うことですね。

「しかし、その人の名前くらい解らんでしょうか?」

「そ~ですね」一課長は手で額の汗ゎ拭いながら、

「つまり、名前も残さないようにという、圧力に屈したわけでして。お恥ずかしいことです」

「誰か、県警の中で知っている人はいませんか?」

「そ、そ~ですね。なにしろ昔のことですから、もう退職された刑事が大半で、もう今となっては難しいですね」

「そう言うわけですか、私は名前を知りたかったのですが……。そう言う理由でしたら仕方ありませんね。長いこと時間を取らせて申し訳ございませんでした。私達はこれで失礼いたします。協力有り難うございました」と言って、二人は課長室を出ようとした、その瞬間。一課長が二人に近づいてきて、

「折角東京から出てきてくれたのに大した情報も与えられませんで申し訳ないです。………。あの~私から聞いたことは内緒にして貰えますか?」

「はい、勿論ですが、何か」

「実はですね、私も若かった頃のことですので、チラッと耳にはさんだ程度の事ですが、その自衛隊退院の名前は、○○○と言うそうですよ」と、小声で教えてくれた。

その名前を聞いた係長は、無言で驚きの表情をした。

「そうですか。有り難うございます。感謝いたします」と、深々と頭を下げると、部屋から二人は出ていった。

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