⑥ いざ兵庫県警へ
翌朝、平滝係長と山田和夫巡査部長は、兵庫県へと向かった。新幹線の車中で、外をジット眺めて何か考えている様子の係長が、不意に呟いた。
「兵庫県警で、手懸かりとなるものが出てくれないと困るな。手ぶらでは帰れないよ」
「そうですね、係長。私には係長が何を探しに、兵庫県警まで行くのか解りませんが」と山田巡査部長が話した。後は無言のままに、二人は神戸に着いた。そして、JR神戸線で元町駅で降りて、兵庫県警までタクシーで、向かった。
県警につくと早速一課長を訪ねた。前もって用件を伝えふて貰っていたせいもあって、すぐに捜査一課長は、部屋を用意してくれていて、そこに警視庁指定広域重要事件113号の事件簿が用意されていた。
「これで、よろしいでしょうか?」と一課長から言葉があった。二人は頭を深く下げて、
「有り難うございます。早速拝見させていただきます」係長が言った。
「こんな古い事件が何か警視庁に繋がる事件でも起こったのですかな」一課長は“ご苦労様”といったニュワンスで言った。
「はい、一寸関連が出て参りまして、どうしても詳しく乗った事件簿が見たくてやって参りました」
「それでは、どうぞごゆっくりご覧ください。もう三十四年前の事件ですので、もうその事件に関わった刑事も県警にいなくて残念ですが、何か訪ねたいことがあったら、私までご連絡ください」と言って、一課長は部屋を出ていった。
「さあ、始めるか」と係長は何冊もある事件簿を読み始めた。何時間眼を通しただろうか。時々係長の、
「フム、フム、成る程」等と言った呟きが聞こえるばかりで。山田巡査部長は、事件簿を眺めてはいたけれど、何を探しているのか、求めているのか解らずに、何となく事件簿を眺めていた。時間は刻々と過ぎて行くが、係長からは何の反応もない。と思っていた時、
「あったぞ、見つけたぞ、山田さんこの戸籍を書き写していてくれ」と声が掛かった。係長に指図された書類とは、朝日新聞社神戸支局で、テロにあい、亡くなった。新聞記者Oさんの戸籍謄本と重傷を負ったIさんの戸籍謄本であった。
「特にOさんは、当時まだ29歳の若さだ。戸籍の住所と筆頭者を写しておいてくれ」と言われて、その戸籍を見ると、
「係長。結婚しているみたいで、筆頭者は本人自身ですね」
「そうか、テロにあったときにはもう結婚していたんだな」そう言って頭を掻いていると、
「ここからが、容疑者の一覧に入って、数人に事情聴取を行っているな。統一教会の幹部と同じく信者の会社員。元朝日新聞の記者、赤報隊の信奉者、この中に自衛隊員もいたんだ。しかし、この自衛隊員を除いてはアリバイが成立したみたいだな。問題の自衛隊員は、伊丹駐屯地の自衛隊員だ。でも、名前が載ってないが、何故なんだろう? しかも事情聴取も出来ていない。ふーん此処に問題がありそうだな。一課長に聞いてみよう。山田さんは、何か気づいたことがありますか?」
「いえ、特には」
「そうかい、それではこの点を一課長に聞いてみようか」と係長は何冊もあった事件簿を片付け始めた。“へ~、もう係長は全てに眼を通したのか? すげえな”と山田さんは、思いながらも、部屋を出て行く係長の後を追いかけた。
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