④ 暗闇からの囁き


 世の中ってのは、解らねえもんだな。こんな偶然なんて、まさに奇跡だな。積もり積もった私の怨念がこんな近くで晴らせるなんて。今まで私が探し回ったのは、一体なんだったんだろう! お袋も病気で三年前に天国に行ってしまったし。散々苦労して私を育ててくれたのに………


 私は父の事を写真でしか見たことがない。そんな私の父の話を聞いたのが、私が高校一年生になったときだった。私の父は何の悪いこともしていないのに、テロリストによって、銃殺されたんだそうだ。私もそのときの新聞などをスマートフォン等で読み返して、必ず私が復讐をしてやると決意したものだ。しかし、どこのだれとも解らない。どーしてあのときのテロリストを探せば良いのだろうと、途方にくれていたものだ。ところが奇跡が起きたのだ。何と、その憎むべき仇敵がはこんな近くにいたなんて、天啓なのか。正に偶然がもたらしたものだった。



 実は先月の末、突然佐伯部長の部長室が変更になることになった。その時に私は、職場の皆と一緒になって部長室の引っ越しを手伝っていたのだが、運んでいるうちに、部屋に入った時、つい褄付いて、持っていた段ボール箱を床にぶちまけてしまった。箱の中身がアチコチに飛び散って、その飛び散った品物を広い集めているときに、黒皮のA4サイズの手帳が目についた。その手帳を見てはいけないとは思いながらも、つい、手帳をパラパラと捲ってしまった。かなり古いものだった。最初のページに『備忘録』と書いてあった。若い頃からの手帳らしい。最初のページは、何だか自衛隊に入った頃の事が書いてあった。“へ~部長は自衛隊にいたことがあるのか”、と想ったのを強く覚えている。そして読み進めると、何だか知らないが、強い思想に取り憑かれたようだ。その頃の日本を大変憂いた思想だったみたいだ。日本革命を強く感じていたみたいだ。そしてその頃、その思想に突き動かされて、テロをやってしまったことを、後悔していた。そのテロは、神戸での殺人の事である事らしい。そこまで読んで、私は愕然とした。私の積年の私怨相手がこんな場所にいたなんて! 私は急いでノートを箱のなかに戻し、なに食わぬ顔をして部屋を片付けていた。その時、部長が部屋には行ってきて、

「やぁ、皆有り難う。後は自分で片付けるから何時もの業務に戻ってくれ」と言うので、私隊は通常業務に戻った。私の胸の中は熱く、熱く、静かに燃え上がっていた。今こそ母や父の怨恨を張らすべき時と、熱く燃え上がった。今こそ私怨を晴らすべき時だ❗ 


 そして、遂に積年の恨みを晴らすことができた。あっ、そうだ例の部長の黒革の手帳を手に入れておかねば、警察なんかに持っていかれたら大変だ。明日の朝早く出勤して、部長の部屋からあのノートを隠しておかなくては。


 上手くいった。ちゃんとあの黒革のノートは手に入れたぞ。これで良い・・・・

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