[第三章] ① 捜査は加速する
平滝警部の読み筋
平滝警部は、捜査本部のある東玉川署に着くまで、自分自身に気合いを入れ、捜査手順を組み立てていた。奥田管理官が話し掛けてきた。
「ところで、平滝君、君の言っていた違和感と言うものが、何か解ったかい?」
「いえ、まだ情報が足りなくて、ハッキリしません。でも捜査方針は大体決まりました。それによりハッキリすると思います」
「そうか、頼んだよ!」等と、話していると、東玉川署にたどり着いた。捜査本部に着いた二人は部屋に入ると、これからの捜査手順を命令する前に、彼らからの報告を聞き取った。
「ゲタさん。今日の報告書はまとめてあるかな?」
「はい、西やんがまとめてくれました」
「ゲタさん、いつまで西やんに頼ってるのかな。確かに西やんは、まとめあげるのが得意だからね」ゲタさんは、へへへと言って頭を掻いていた。
「この書類がそうなんだね……。ん~ん、良くまとめてあるな。さすがに西やんだ」そして目を一通り通すと、管理官に手渡した。
「何だ~、大して新事実は挙がってないね。こんなに手懸かりがなくてどうやって捜査を始める気だ! 新しくでた近所の情報では、犯人が逃げるタイミングで、高校生が車を目撃してるね。『暗いので色は解らなかったけど、車種はミニクーパだったよ』と言うのが新しい目撃情報か。車に詳しい高校生だったのかな。で、その後の追跡は防犯カメラに写ってはなかったのか?」すると、ゲタさんが、
「どうやら民家の防犯カメラには写り込んで無かったですね。残念ですが、民家の訪販カメラは玄関先の様子を写すようにセットされてましたから、道路を通る車は写ってなかったのです」と、報告した。すると、係長が尋ねた。
「被害者宅から、運んできた物品は? どこにある」
「はい、係長。後ろの机のうえにあるのがそうです」と、ゲタさんが指差した。
「パソコンや携帯電話は無かったのか?」
「その二点は、科捜研まで持っていって、鑑定を頼みました。何せ両方ともパスワードでロックされていたので」
「そうなのか、会社で使っていた部長のパソコンもロックが掛かっていたから、警科研に頼んで貰ったよ」
「は、警科研ですか?」
「ちょうど向こうで、管理官の動機の人にあってね、警察庁に頼んできたよ」
「は~、そうなんですか」そして係長から、号令がかかった。
「みんな、席について。これからの捜査で、頼みたい事を指示したい」と、雛壇に着席した。
「皆には、内緒にしていたが、実は今回の殺人事件には、犯行声明があったことを報告する。それがこれだ」と、犯行声明文のコピーを掲げた。
「犯行声明には、『赤報隊』とあった」捜査員一同がざわざわとし始めた。
「知っている者もいるかと思うが『赤報隊』とは、三十四年前に朝日新聞の神戸支社で起こったテロ事件で、まだ解決されていない事件だ、その残党が今ごろでてきたとは想えないのだけれど、一応警察庁の未解決指定事件だ。しかし私は、今回の事件はこんなものに惑わされずに刑事のいろは、基本に帰って捜査を行いたいと想う」すると、警察署長が
「おいおい、それを言っても良いのかね?」
「はい、その事は警察庁とも話し合ってきました。次の記者発表の際には言ってもらって、結構です」
「えー、マスコミが騒ぐぞ」
「結構です。私にはこの犯行声明が実は、何か他の事をサゼッションしているようにも想えるのです」
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