④ 警察庁庁舎にて


   奥田管理官と平滝係長


 管理官は何か思案げに合同庁舎を引き上げた。

「なぁ、栗林! 今から例の事件簿を見せてくれよ」と、栗林警視に言った。

「そうだな。それじゃあ警察庁に行こうか」と言うことで、管理官と平滝警部は栗林警視の車の後について警察庁に向かった。警視庁の建物に着くと、奥田管理官と、俺は栗林警視の後に着いてエレベーターで、刑事局のある階に降り立った。長い廊下を歩くと捜査第一髁の部屋があった。そこには他の係も入っていたが、部屋の隅に連れていかれ、そこにあるソファーを進められたので、二人ならんで座った。

「ここで、ちょっと待っていてくれ、おーい、春日君。例の事件簿をコチラの二人に見せてやってくれ。連絡しといただろ」すると、奥の席から、

「ハーイ、解りました」との返事が聞こえた。

 

 

「ここで、事件簿を見ていてくれ、ま、事件簿と言っても、内の刑事髁から兵庫県警に指導に言った奴の事件簿だから、あまり詳しいことまでは載ってないよ! まぁ詳しいことは兵庫県警に聴いてくれ。その間に鑑定依頼書を作成して、例の物を科警研に頼んでくるから」と言って栗林警視は自分の席に戻っていった。そして待っていると、春日君と呼ばれた職員が、事件簿を持ってきてくれた。

「はい、これがそうです」なんとも無愛想に置いていった。その事件簿を手に取った、平滝係長が早速目を通し始めた。例の癖を出しながら、右手の人差し指でくるくると髪の毛を巻き付けては引っ張っている。

「ウーム、これが事件の概要か。三十四年前だな。朝日新聞社の神戸支局がテロにあったんだな。やはり銃殺か。死亡したのがOさん(29)一人と、重体の人がIさん(41)でニ人被害者が出たんだな。しかも、当時の目撃者もいる。この人は無傷ですんで幸いだったが、当然警察の事情聴取に応じたはずなのに、顔も解らなかったのだろうか? 銃撃した様子などを目撃したはずなのに、ここまで解っていて、兵庫県警はどうして迷宮入りにしたのかな? イヤイヤ、ここにその人の証言が書いてあるな。『突然、銃を持って踏み込んできて、Oさんに発砲した人間は、何か銃の扱いになれた人のように見えました。あれは素人の銃の扱いには見えなかった』と、証言がある。そして、数人の容疑者が浮かんでいたんだ。なのに迷宮入りか」

「そうじゃないよ、迷宮入りにさせられたんだよ」と奥田管理官がそっと呟いた。

「その事件が起こったあと、所謂『霊感商法』や日本国家機密法である『スパイ法案』のことで、各方面のマスコミや、政治家にも脅迫状が届いたものだから、圧力がかかったのだろう。問題はその後も中曽根元総理大臣のことで、やれ靖国神社に詣ったとか、スパイ法案を提出しようとして国会で大騒ぎになったとき等。赤報隊から各政治家に脅迫状が出たんだよ」

「そうなんですか?」

「それだけじゃないよ。中曽根元総理大臣の時代には、いろいろなうわさがとんだものらしいよ。例の御巣鷹山飛行機墜落事件の時も何やらきな臭い噂があったらしい。俺も『赤報隊』の事件が起こったとき、少し書物で調べてみたんだけど、『赤報隊』と言う名前は、歴史が古く、明治維新前からあったそうだ。明治維新が起こる前から薩摩藩の西郷隆盛が作っていた塾生たちが世直しのために、最初に名乗ったらしいな。それから『赤報隊』を名乗っているみたいなんだよな」

「それはそうと、係長。今行った○✕産業の感触はどうだった? 君の意見を聴きたいな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る