[第二章] ① 合同庁舎にて

   特捜部との駆け引き


 ○✕産業を後にした二人は、約束通り東京地検特捜部の小坂部おさかべ主任に会いに行くことになった。以前は霞が関の合同庁舎別館にあった特捜部も、今は千代田区九段南の合同庁舎内 東京地方検察庁九段庁舎に変わっていた。

「九段南の合同庁舎に行けばいいのですね」と、平滝係長が言った。

「宜しく頼む」二人は目的地へと車を移動させた。

 

 庁舎に着くと、二人は特捜部の入る別棟へと足を進めた。その別棟に入ると案内コーナーがあって、二人を見かけた女性職員が近寄ってきた。

「警視庁のお方でしょうか?」

「そうですが」と二人揃って答えると、

「小坂部主任から聞いております。いらっしゃいましたら、案内をするように頼まれましたので、どうぞ此方の方へ」と、右手を差し出され道案内をしてくれた。そのまま案内をしてくれる女性の後を着いていくと、三階のある応接間らしき部屋に通された。

「どうぞ此方でお待ちください。直ぐに連絡をして参りますので」と言って、彼女は部屋を出ていった。平滝係長が奥田管理官に話しかけた。

「管理官。どんな話があるのでしょうかね?」

「そうだね。玉川東署の所長室で電話を受けたさいには、何でも今、特捜部が追っかけている贈収賄事件の要の人物が、佐伯部長だったらしいから、尻尾を切られて、新しい証言を得られる人物探しでもしようってのかな?」

「しかし、それは警察の矜持では有りませんね」

「警察の矜持かい? 君はどんな矜持を持っているんだい?」

「私は、警察官の矜持とは、庶民の平和と財産を守ることにプライドを持っています」

「成る程ね、庶民の平和と財産を守ることね。じゃあ地検の矜持とは違うものだと言いたいわけだね」

「そうです。地検には地検のプライドと言うものがあると思いますが」 

 等と話していると、部屋をノックする音がして、一人のいかにもエリートと言わんばかりの風采をした三十五歳くらいの男が入ってきた。

「よく来てくれました。私が小坂部誠おさかべまことです。主任をしています」と言いながら、二人と名刺を交換した。彼は私たちの正面に向かい合わせになる位置に腰を降ろした。

「どんな用事でしょうか? 先ずはお話しを伺いましょうか」管理官が口火を切った。

「前回、電話でもお話ししたように、佐伯部長は、我々特捜部の証人として期待していた人物なんですが、その人が昨夜殺されたと、連絡があったものですから、何とかこの殺人事件に絡んで次の証人となれる人物を探したいと思いまして、警視庁にお手伝いいただけないものかと。お願い致したいのです」

「しかし、それは警視庁のする役目ではなく、検察庁の仕事でしょう」

「勿論、検察庁は検察庁で特捜部のチームが動くわけですが。なにしろ特捜部では、今のところ遅れを取っておりまして、………。そこにこの殺人事件です。殺人事件ともなると、当然○✕産業にも捜査の手が入るわけですが、その際手に入れた資料を、特捜部にも特別の配慮を頂きたくて」

「つまり、手に入れた資料を特捜部にも開示して欲しいと言うことでしょうか?」

「その通りです。参考にさせて頂きたくて……」

「成る程ね、しかし、警視庁が集めた資料が参考になりますかね?」

「勿論、今はどんなことにもすがりたい気持ちなんです」そこで、平滝係長から発言があった。

「地検もご存じでしょうが、警視庁の中では検察庁に対して、あまり良い感情がありませんね。よく検察官は現場に口を結構突っ込んできますし、物証、物証と口うるさい。そんな現場の刑事たちが、喜んで検証資料を喜んで提出するとお考えですか?」

「あぁ、刑事部の検察官のことですね、あればあれで、彼らの仕事なので何分にもご容赦をお願い致します」

「しかし、殺人事件の捜査が特捜部の役に立つでしょうか? 何しろ我々としては、殺人者を捕まえるのが目的なのですから」

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