⑪ ○✕産業にて Ⅴ


    各部所の係長と


 そこに長谷川係長が帰ってきた。

「金沢課長は、捜査に協力しろと言っています」

「では、このパソコンはお預かりして帰ります」係長が持ち上げた。

「後、机の中にあった部長さんの名刺入れと、個人ノートも持って帰ります」

「はぁ、……」長谷川係長は、頷いた。管理官は、

「この書棚の中にあった、IR法に関する書籍も貸してください」と言って、二冊の書籍を手に取った。

「はぁ、……」再び頷く係長。

「平滝係長! まだ何かある?」

「いえ、もう持てませんね」

「そうだな、必要な時は又来よう」

「ところで、長谷川係長。一寸我々と話をしませんか?」

「はぁ、どんなことでしょうか?」

「まぁ、そこのソファーにでも座って話しましょう」と、三人は部長の机の前にあった、応接セットに腰を掛けた。さすがに専務室の応接セットとは格が違う粗末なソファーであった。

 管理官は、長谷川係長を見ると、

「このフロアーに入った時、目に入ったのですが、このフロアーには、人事部とあなたの経理部と管財髁が入ってますね」

「はぁ、そうですが」

「では申し訳ありませんが、人事担当の係長と管財担当の係長も呼んで貰えませんか。それぞれにあっている暇がないので三人一度に質問をしたいのですが」

「成る程解りました。三人に声を掛けて参ります」と言って、長谷川係長は、部長室を出ていった。そして平滝係長は、また部長机を詳しく見始めた。特に引き出しの中を。そしてもとのソファーの位置に戻ってきた頃に、長谷川係長が二人を従えて部長室に帰ってきた。長谷川係長が紹介を始めた。

「えぇ、此方が管財係長の箱崎昇はこざきのぼると申します」と、黒淵メガネを掛けたまだ若く三十歳を少し越えたくらいだろろう。

「そして、此方が人事係長の高藤康太たかふじこうたと、申します」と、背が高く少し長めの黒髪をした、やはり箱崎係長と同じくらいの年齢に感じられる係長を紹介した。管理官は、

「まぁ、そんなに堅くならないで、そこにお座り下さい」と言って管理官も平滝係長も二人に名刺を渡した。

「皆さんに来て頂いたのは、昨日佐伯部長が殺害された件で、会社の中での部長を知るために、話を伺いに来ましたので、宜しく正直なことをお話しください」三人の係長は、緊張からか、にこりともしなかった。

「まぁ、そう緊張なさらずに私たちの質問に正直に答えて下さい」と管理官は膝を崩してにこりと笑った。

「そうですね、先ずは佐伯部長さんの人柄についてお聞きしたいのですが」

そうすると三人の係長とも同じような答え方をした。

「つまり、温厚な人柄だったと言うことですね」三人は軽く頷いた。

「誰かに恨まれていたことは、ありませんか?」三人は様々に首を振った。

「そうですか? こんな大きな会社の部長さんですよ、他人に恨まれずに部長までなされているとは思えませんがね、何しろ佐伯部長は企業戦士だったわけですよね。昭和生まれの企業社員だった訳で、会社内での競争もかなりあったと推測されますが、誰にも恨みを買わずに、今の地位まで得られるでしょうか? そこのところどうですか? 社外的でも宜しいですが何かひとつでも思い付きませんか」すると人事課の係長が、

「会社以外でもと言われましても、プライベートなことは、何も解りませんし、殺されるほど憎まれていたとは噂でも聴いたことがありませんね、多少のいざこざは有ったでしょうが………」その言葉に習うように、残りの二人の係長も頷いていた。

「でもですよ、これ程の大きな会社となれば、会社の中に派閥と言うものが出来ていたと思うのですがね所謂主流派とか、はぐれ派とか、社長派とか、会長派とか、有ったんじゃないですか?」すると人事係長が口を開いた。

「派閥ですか。確かに社長派と会長派と言うのは有りましたね。会長はこの会社を一不動産屋からこのように大きな会社にしていった人ですからね。また、社長派は更に国外にも会社を広げた功績の持ち主ですしね。現在は社長の一族が、要所要所を司っていますからね」

「部長はどちら派でしたか?」

「佐伯部長は、社長派だと思いますが、社長と姻戚関係はありませんね」

「ほう、そうですか。まぁどちらの派閥からも恨みは買ってなかったと言うことですね」そこで、平滝係長が質問の口火を切った。

「この会社では、宗教の自由や思想の自由は認められているのですね」今度は経理係長が答えた。

「勿論です。宗教に関しては法律でも自由が吟われていますからね。思想については、危険な思想を持っていないかの検証はされていましたね」

「いたのですか? 危険な思想の持ち主が」

「いえ、今のところ出ていません」

「では、三人にお聞きしますが、『赤報隊』ってご存じですか?」

「『せきほうたい』ですか? 聴いたこと有りませんね」みんな知らなかった。

「そうですか。これは一寸小耳に挟んだのですか、何でも此方の佐伯部長が横領をしていたとか? 聞いていませんか」長谷川係長が吃驚して大きな声を出した。

「一体、誰にそんなことを聞いたのですか? そんなことはありませんよ」

「しかし、蓬来専務に聞いたのですがね。今調査をさせていると』

「えっ、蓬莱専務から……そんな馬鹿な❗ スミマセンこの事は社外秘なので黙っていて貰えませんか」

「勿論です。これは御社の事ですから告訴でもない限り、誰にも言いませんのでご心配なく」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る