⑩ ○✕産業にて Ⅳ


   佐伯部長の部屋で


 二人は秘書の後について、五階まで降りて、総務部・経理部・管財課と三段書きにされた札の下がった、大きなフロアー部屋の奥にある部長室に案内された。そのフロアーで働いている何十人もの社員たちの好奇な目にさらされた。部長室に入ると、正面、外が眺める窓の前に大きな机がおかれていた。

 

「有り難うございました。ここが佐伯部長の部屋なんですね」

「ハイ、そうでございます。それでは私は失礼させて頂きます」彼女は部長室を出て行こうとしたが、

「すいません。一寸経理係長さんを呼んで貰えないでしょうか?」

「ハイ、係長ですね了解しました」と言って出ていくと、直ぐに係長らしき若い男性を連れてきた。その男性は軽くお辞儀をすると、

「経理係長の長谷川はせがわと申します」そして二人と名刺の交換をした。

「大体の事は、課長と専務に伺いましたが、もう少し部長について身近にいらした係長に伺いたいと思いまして来て頂きました」と、言いながら二人は部長の机回りや、引き出しを開けたり書棚の本を眺めたりしていたが、

 

「私たちがどうしてきたのか、解っていますよね」

「ハイ、佐伯部長の件ですね。何でも昨夜銃殺されたとか」管理官と係長は目を合わせると、

「長谷川係長、どうして銃殺の事を知っているのでしょうか? 記者発表では、まだ銃殺されたことは発表していませんが?」

「えっ、そうなんですか。私はそう言う風に専務に聴かされて、若手を二名ほど部長の家に差し向けたのですが」

「そうですか、では専務から聴いたわけですね」管理官は、平滝係長にウインクをした。

 

 平滝係長は、例のごとく右手人差し指で髪の毛をくるくると巻き付けては引っ張る行動を繰り返しながら、部長の席を調べていた。

「長谷川係長! このデスクの上にあるパソコンを見てもいいでしょうか?」

「でも、そのパソコンは、佐伯部長がパスワード設定をして要るので、開かないと思いますよ」

「係長は、そのパスワードを知らないのですか?」

「勿論知りません」

「このパソコンを捜査の参考に署に持って帰っても良いでしょうか?」

「さぁ、私にはなんとも………」

「課長さんに、聴いてみてください」

「はぁ、……解りました。聴いてきます」と、言って部屋を出ていった。管理官は、書棚を主に見てまわっていた。

「ふう~ん、流石にリゾート開発会社だな。リゾートに関する書籍がやけに多いな。あれ、カジノ関係の書物もあるぞ。日本にはカジノを経営した経験のある会社なんてあるわけ無いもんな、外国の会社の本ばかりだな」

「成る程、IR法ですか? でも課長は、わが社は関係ないと言っていましたね」係長は、そう言いながら、今度は引き出しを開け始めた。

「そう、現在はね」と、管理官が言った。

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