⑨ ○✕産業にて Ⅲ


     蓬来専務と


「ところで、警察の方のお出ましとは、昨日起こったという、佐伯部長の殺人の事で来たのでしょうな」鋭い眼光を放ち、二人をじろりと睨み付けた。

「仰せの通りです。昨夜の事はもうご存じですね」管理官は姿勢をソファーの中でモゾモゾと正して言った。

「ハイ、朝のテレビで見て吃驚したところです。今、経理部の若手を数人部長のお宅まで、派遣したところです」これが、会社のため社会で戦い抜いてきた戦士のオーラなのか。一言、一言に厳しさが包まれている。

「ところで、金沢経理課長がある程度質問には答えていると存じますが…」

「ハイ、ある程度はお聞きしましたがまだお聞きしたいこともありまして」

「ほう、どんなことでしょうか?」

「大体、佐伯部長の人となりはお聞きしましたが、専務の佐伯部長に対する人となりもお聞きしたいかと」

「人となりとは?」

「誰かに恨まれていたとか、何か悩み事があったか等です。どうですか佐伯部長の社内又は社外での評判は?」

「そうですな、プライバシーのことまでは解りませんが、社内では誰かに恨まれるなんて事は無かったと思いますが。………さてと、ところで、ちょっとお話ししておきたいことがありますが」

「ハイ、どんなことでしょうか?」

「その前に、おい君、金沢課長! 悪いが席をはずしてくれないか」課長は怪訝な顔をしたが、

「わ、私ですか? 解りました」と言って席を立とうとしたその時、平滝係長が発言した。

「一寸お待ちください。お二人にお聞きしておきたいことがあります」

「ほう、何でしょうか」専務が怪訝な顔をした。

「実は、お二人にお聞きしたい事とは。お二人は『赤報隊』と言う言葉をご存じでしょうか?」管理官が慌てて係長のほうを見た。

「『せきほうたい』、ですか? 何でしょうか。知りませんが」と二人声を合わせて言った。しかし専務の細い目が少し大きくなり、落ち着きがなくなった。

「そうですか。いえ、ご存じ無ければ結構です」

「そうですか、それでは私は席を外させて頂きます」と言って、応接室を出ていった。課長が部屋を出ていくと、専務は、再び姿勢を正して、話し始めた。

「実は、まだ内部で調査の途中なのですが、佐伯部長に横領の疑惑が出ていまして、お恥ずかしい話ですが。はっきり証拠が出ましたら、警察に告訴しようかと考えていたところでした」

「へぇ、横領疑惑ですか? いくら程でしょうか?」

「実は二億円です。勿論一度にというわけではないと思いますが、ここ数年疑惑が上がっていまして」

「では、何故課長に席を外させたのでしょうか?」

「課長には秘密で、経理係長と、会社で契約している税理士とで、今のところ調査をさせているところなのですよ」

「どうして課長には内緒なのでしょうか?」平滝係長が追求すると、

「実は、課長も部長と一緒になって横領していたのではないかとの噂もありまして」

「成る程、これ程の大きな会社ですからね、一人では横領も難しいでしょうな」

「そう言うことなんですよ」

「しかし、二億円とは大きな金額ですね」

「そうなんですよ、まぁ、そんな事情もあると言うことで、捜査の足しになればと思いまして」

「それは、それは、有り難うございます」そこで管理官が話を繋いだ。

「専務さん、実は私たち二人は、部長の机等を見させていただきたいのですが。宜しいでしょうか」

「ハイ、勿論構いませんよ。オーイ加納くん」どうやら秘書を呼んだようだ。

「ハイ」と、矢張先程の秘書が顔を覗かせた。

「加納くん、お二人が部長の机回りなどを見たいそうだ、案内をしてくれた舞え」と言うことで、私たち二人は専務にお邪魔した旨をことわり、秘書の後を着いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る