第6話 泊まってもいい?

「ん~、おいひい~」

「そっか、よかった。それにしても、唯は本当に美味しそうに食べるな」

「だって、美味しいんだもん!」


 唯はチーズたっぷりのピザを頬張る。

 とても幸せそうな顔をしながら食べるんだよな。唯は昔から美味しそうに食べるんだよね。


 食べ方はとても上品で可愛らしい。



「ふぅ、美味しかった。海斗くん、本当にありがとう。代金はいくら渡せばいい?」

「代金はいらないよ」

「え、でも……」

「本当に大丈夫だよ。唯が美味しそうに食べてる姿を見れただけで代金以上の価値があるから」

「……っ!?」


 唯は頬を赤らめる。

 さすがに恥ずかしかったのだろう。恥ずかしがっているところを見て、俺も自分が言ったことに恥ずかしさを感じてしまう。


 ピザを食べ終え、窓から外を覗いてみるともうすでに日も落ち、暗くなっていた。


「もう外は暗くなってきたし、帰る? 危ないかもしれないから俺が家まで送るよ」

「あ、いや、あの……」


 唯が何故かもじもじし始めた。

 もしかすると、もう少しここに居たいのだろうか。もしそうなのであれば、まだ居てもらっても全然構わないのだけど。


 すると、唯は俺の服を掴んで緊張した表情で俺のことを見つめる。


「どうしたの?」

「あの、今日、ここに泊まってもいい……かな?」


 え、唯がもじもじしていたのはここに泊まっていきたかったからだったのか!


 昔は唯が俺の家に泊まったり、俺が唯の家に泊まったりすることがあったが、それはあくまで昔のことだ。

 だけど、俺の服を掴む手はぷるぷると震えている。恐らく、勇気を振り絞って俺に頼んだのだろう。その唯の勇気を無下にすることは俺には出来ない。


 俺は唯の頼みを承諾することにした。


「ここに泊まって行ってもいいよ」

「本当に!? ありがとう海斗くん!」

「でも、着替えとかはどうする?」

「あ、それならちゃんと持ってきたよ!」


 ちゃんと着替えまで持ってきてるとは、唯はさすがだな。

 ……ん?

 元々は泊まるわけじゃなかったのに何で着替えをちゃんと準備しているんだ。


 もしかして、今日一緒に帰ろう、と頼んできたときから泊ることも頼むつもりだったのかな。


 そんなことを考えていると、俺はとある問題に気が付いてしまった。


「泊まるのは良いんだけど、問題が一つあるんだよね」

「問題?」

「そう、ここにはベッドが一つしかないってことなんだけど」

「あっ!?」


 唯はベッドが一つだということを考えていなっかたようで、かあっと顔を真っ赤にしていた。

 だが、大丈夫だ。ちゃんと、対策も思いついている。


「唯、心配しなくても対策は思いついてるから。俺がソファで寝ればいいだけだよ」

「それはダメ!」

「え?」


 唯が否定してきたことに驚いた。

 それに普段では出さないような大きな声だったので余計に驚いてしまった。俺はこれが完璧な対策だと思っていたから、ダメと言われると思いもしていなかった。


 俺が困惑した表情をしていると、唯はダメな理由を話し始める。


「ここは海斗くんの家なんだよ? それなのに、海斗くんがベッドじゃなくてソファで寝るのはダメだよ。私がソファで寝るならまだわかるけど」

「でも、さすがに唯をソファで寝させるわけにはいかないよ」

「海斗くんならそう言うと思って、ちゃんと解決策もあります!」

「さすが唯だね。それで解決策って言うのは?」

「私と海斗くんが二人ともベッドで寝ればいいだけだよ」


 唯は自分で何を言っているのか分かっているのだろうか。

 年頃の男女が同じベッドで寝るなんて普通考えつかないだろ。


「唯……自分で何を言っているか分かってる?」

「うん、わかってるよ。当たり前だけど、恥ずかしさはあるよ。でも、昔みたいに一緒に寝たいなと思ったんだけど、海斗くんは……嫌?」

「別に嫌ではないよ。唯が良いのであれば、俺も大丈夫。ただ、俺も少し恥ずかしいけど」


 唯は無意識にこの解決策を出したわけじゃなくて、恥ずかしさも多少あるうえでこの解決策を出していたんだな。

 それなら、俺が断る理由もない。


「海斗くんの家に泊まるの久しぶりだから、楽しみだね」

「それに、今回は地元の家じゃなくて自由だから余計に気分が楽だよね」

「たしかにそうだね、また海斗くんのお母さんとお父さんとも話してみたいけどね」

「まあ、そのうちな」


 唯は俺の親とも仲が良かったからな。

 俺の親には今度伝えておこう。きっと喜ぶだろうから。


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