第5話 中学の卒業アルバム

「失礼します」

「どうぞ~」


 俺は唯を住んでいるマンションの部屋へと案内する。

 よく考えてみたら地元を離れてこのマンションに住み始めてから家族以外をこの部屋に入れたのは初めてだ。

 そのことに気づいてしまったせいで余計に緊張してしまう。


「ここに海斗くんは住んでいるんだね。本当に一人暮らし?」

「うん、そうだよ」

「なんか……一人暮らしにしては広すぎない?」


 確かに一般的に考えるとこの部屋は一人暮らしにしては広い。

 だけど、これには理由があるのだ。


「ここは叔父さんのマンションなんだよ。俺が地元を離れたときに叔父さんが安めの家賃でこの部屋に住んでいいよって言ってくれたんだ」

「そういうことだったんだね。それにしても広いね。一人で住んでいると掃除とか大変そう」

「意外とそうでもないよ。空き時間に少しずつ掃除していれば部屋が汚くなることはないからね」


 俺は唯をリビングルームへと連れて行く。

 ここならテレビもあるし、寛ぐにはちょうどいいだろう。もしかしたら、学校終わりでお腹が空いているかもしれないし何か用意しようかな。


「唯、今お腹空いてたりする?」

「え、なんでわかったの?!」


 やはりお腹が空いていたようだ。

 まあ、実際は唯がお腹空いているのに気づいたというよりは、俺自身が少しお腹が空いていたので、もしかしたら唯もそうなんじゃないかと思っただけなのだが。


「俺もちょうどお腹が空いていたから何か用意するよ。何か食べたいものとかある?」

「あ、海斗くんが用意してくれたものなら何でも嬉しいよ?」

「うーん、何でもいいって言われると、意外と思いつかないな。だから、やっぱり唯が決めてくれる?」

「え、うーん、本当に何でもいいの?」

「もちろん!」

「じゃあ……ピザ……かな」


 ピザならデリバリーで頼めたりするし、作る手間が省けて俺にとっては楽で良いのだが、本当にピザでいいのだろうか。もしかして、遠慮してピザを選んだのではないだろうか。


 俺は唯が遠慮しているかもしれないと思い、もう一度聞くことにした。


「本当にピザでいいの? 遠慮してない? 俺に対して遠慮する必要ないんだよ?」

「遠慮してピザ選んだわけじゃないよ。いつも友達と遊びに行ったりするとみんな女の子だからカロリーとか気にする子が多くてピザとか食べないんだよね」

「なるほどね、いつもその人たちと同じものを食べてるから、最近はピザとか食べれてなかったんだね」

「そう、だからピザが良いの」


 そういう理由があったか。

 俺に遠慮して選んだわけではないと知ることができて良かった。気を遣わせてしまっていたら、申し訳ない気がするし。


「よし、それじゃ早速ピザのデリバリーを頼むから唯はテレビでも見ながらソファで寛くつろいでいていいよ」

「うん、ありがとう」


 近くのピザ屋さんの電話番号を調べて、ピザのデリバリーを頼もうとしたが唯にどのピザがいいか聞くと、チーズが多いやつが好きらしく、俺の好みと同じで頼みやすかった。

 やはりピザと言えば、チーズたっぷりこそ至高だよね!


 ピザを頼み終えた俺は唯のところに戻ると、唯は歌番組を見ながら綺麗な姿勢でソファに座っていた。

 その綺麗な姿勢を見て、俺は中学生の時のような優等生で清楚な部分が抜けていないところもあるんだな、と微笑ましく思った。


「ピザ頼んだから、ピザが届くまでの間一緒にその歌番組観る?」


 唯は首をぶんぶん、と勢いよく横に振る。


「海斗くんとお喋りしたい!」

「お、おう、そっか。俺もテレビを観るより、唯と喋っている方が楽しいと思ってるよ」

「よかった、それじゃあ中学時代の話とかする?」

「そうしようか。あ! それなら良いものがあるよ」

「良いもの……?」


 俺は自分の部屋に行き、クローゼットの奥からあ・る・も・の・を取り出し、そのままリビングルームに持っていく。


「ほら、これ。これがあった方が盛り上がるでしょ」

「これって……!!!」

「そう、中学の卒業アルバムだよ」


 俺は卒業アルバムを机の上に置いて、唯の隣に腰を下ろした。


「あ、海斗くんこれ覚えてる?」

「あー、懐かしいな。体育祭のクラス対抗リレーで俺がアンカーを走って他のクラスの走者を抜いて一位になったやつか。あれは運が良かっただけだと思うけどなぁ」

「そんなことないよ! このときの海斗くんかっこよかったよ! それに、ゴールした瞬間、私にピースサインしてくれたんだよ」

「たしかにそんなこともあったな」


 唯がそんな細かいところまで覚えてくれていたことに驚いた。その後も唯は嬉しそうに中学時代の出来事について笑顔をみせながら語ってくれた。

 主に俺を褒めていたような気もするが、気のせいだということにしておこう。そうでもしないと、俺はにやけてしまって情けない表情になってしまいそうだ。


 アルバムの最後のページを見終わるのとほぼ同時にインターホンが鳴った。


「お、ピザが届いたみたいだね。取ってくるね」

「うん、ありがとう」


 中学を卒業してから地元の知り合いには会っておらず、思い出話に花を咲かせることもなかったので、とても楽しい時間を過ごせたと思う。


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