第3話 教室で話しかけても良いんだよね……?
翌日、教室に着いて隣の席を確認したが唯はまだ登校してきてないようだった。なんだか少し緊張する。
昨日は他のクラスメイトが周りにいなかったから話すことができたけど、今日は昨日とは全く違う状況だ。
というか、たくさん話そうとは言ったけど、唯は話しかけてきてくれるのだろうか。何故か急に不安になってしまう。
「はーい、みんなもうすぐショートホームルーム始めるから席につくように」
担任の教師が教室に入り、立ち話をしている生徒たちに席につくように促す。
唯は体調を崩してしまったのかな。
それとも、ギャルの友達と夜遅くまで遊んでいて寝坊しちゃっているとか、かな。
俺がそんなことを考えていると、ショートホームルームが始まろうとした瞬間、教室のドアがガラッと開き、唯が息を切らしながら入ってきた。
恐らく、学校まで走ってきたのだろう。
「唯、危なかったね。もう少しで遅刻になるとこだったね」
唯は頬を赤くしてぺこり、と会釈した。
恥ずかしそうにしているので、俺と話したくないから返事をしないのではなく、恥ずかしさが話したいという欲に勝ってしまっているのだろう。
「……ん」
ショートホームルーム中、唯がノートの切れ端をちぎって何かを書いて俺に渡してきた。
不思議に思ったが、それを受け取り内容を確認する。
『教室でも話していいんだよね?』
そこにはそう書かれていた。
なるほど、恥ずかしくて話せなかった訳ではなかったのか。もちろん、恥ずかしさも多少あるだろうが、唯は教室でも話していいのか分からなかったようだ。
昨日のように周りにクラスメイトがいない状況じゃないと話したらダメかもしれないと思ったのだろうか。
俺がそんなことするわけないのにね。俺はむしろ空いた時間があれば、ずっと話したいくらいの気持ちなんだけどな。
俺は受け取ったノートの切れ端に『もちろん』とだけ書き、唯に渡した。
それを受け取った唯は、ぱあっと花が咲いたかのような満面の笑みを浮かべた。俺は思わずドキッとしてしまった。
自分の心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。
唯も頬を赤くしているが、きっと俺も耳まで赤くしてしまっているだろう。
ショートホームルームが終わり、担任の教師が教室から出ていくと、教室内が騒がしくなる。
友人同士で談笑する者や、一限目の授業の準備をしている者など、クラスメイトたちはそれぞれ違うことをして次の授業までの時間を過ごしていた。
唯は次の授業までの時間をどう過ごすのか気になり、隣を向くと、こちらに手を伸ばしており、ちょうど俺に話しかけようとしているようだった。
ここで俺から話しかけても良いのだが、せっかく唯が勇気を出して話しかけようとしているのだから唯から話しかけてくれるのを俺は待つことにした。
唯は一度、深呼吸をしてから真剣な眼差しを向けて、話しかけてくる。
「ねえ、海斗……くん」
俺は今にも泣いてしまいそうだった。
昨日も話はしたけれど、また中学生の頃みたいにクラスメイトがいる中で話しかけてくれたことが堪らなく嬉しかった。
「どうした唯」
「あの、今日も学校が終わったら一緒に帰ってもいい?」
いつの間にそんな上目遣いを覚えたんだ。気づかないうちに先ほどよりもさらに心臓の鼓動が早くなっている気がする。
だけど、それはきっと唯も同じだろう。
唯はぷるぷると震えながら不安げな表情でこちらを見つめている。
俺の返す答えは一択なのだけど。
「唯、もちろんだよ。俺も一緒に帰りたかった」
「ほんとうっ?! よかった、嬉しい……」
「中学生の頃は毎日のように一緒に登下校してたのにね」
「そうだったよね、またあの頃みたいになりたいな」
「なれるよ、それじゃ友達と遊びに行ったりする日以外は一緒に下校する?」
「え、いいの?」
「もちろん。昨日言ったでしょ? 今まで話せなかった分、たくさん話そうって。一緒に帰るようにしたら、話せる時間も増えるから、俺はできるだけ一緒に帰りたいなと思って」
さっきまでは俺が泣きそうになっていたが、今は唯が泣きそうな顔になっている。きっと、唯も俺と同じ気持ちなのだろう。
一緒に下校して話せる時間が多くなることを嬉しく感じてくれている。
その後も俺は唯と談笑していたら、気づかぬうちにクラス中の視線が俺たちの方を向いていた。
男子たちからは羨ましそうな視線を。
女子たちからは興味ありげな視線を。特にギャルたちから。
俺と唯がその視線に気が付くと、クラスメイトたちが一斉にこちらへと歩いて向かってくる。
こわいこわい、何これ。
周りの人たちが一斉に自分たちの方に寄って来るのなんて、ゾンビ映画とかでしか見たことないよ!
俺と唯は困惑していた。
「え、みんなどうしたの?」
俺がクラスメイトたちにそう聞くと、彼らは一斉に口をそろえて問いかけてくる。
「「「どういうことなの?!」」」
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