第2話 一年ぶりの会話

「これも、これも、全部……?」


 唯のこれまでのSNSアプリでの呟きを見ていくと、すべての呟きには共通点が存在した。

 それは……


「すべての呟きの内容が俺について書かれてる……。それに、悪口とかじゃなくて、俺に対してのデレを呟いてる」


 でも、そうなると余計に不思議だ。

 なぜ唯は裏アカではこんなにデレているのに学校では口を利いてくれないんだろう。


 俺は唯の裏アカの一番最初の呟きを確認してみることにした。きっと、一番目の呟きなら何かしら分かるのではないかと考えたからだ。


 一番目の呟きまでスクロールしてさかのぼった。

 日付は、中学校の卒業式の日だった。そして、俺と唯が話した最後の日でもある。


 俺は呟きの内容を確認する。

 その呟きを見て、俺は唯がギャルになったのは自分のせいだということを知ってしまった。

 呟きに書かれていたのはこうだ。


『今日、海斗くんの好きなアニメの話で盛り上がった! それで、好きなキャラクターを聞いたら、ギャルのキャラクターだった! それを聞いて私はギャルになることに決めた!』


 これが唯をギャルにした原因だったのか。

 つまり、唯は俺に好意を寄せてくれていて、俺に好きになってもらうためにギャルになったということか。なんだよそれ、まずいな、顔が熱くなってきた。


 中学生まで優等生で、清楚美人でやってきたのに急にギャルになるのは勇気がいることだと思う。それを俺のために何の躊躇いもなく実行したってことかよ。


 でも、そうなるともう一つの疑問が浮かび上がる。

 それは、俺と口を利かなくなった理由だ。


 その答えは二つ目の呟きにあった。

 二つ目の呟きが投稿されたのは高校の入学式の日だった。そこには、『ギャルになって、ギャルの友達もできたけど、肝心の海斗くんと恥ずかしくて話せないよ!』と、書かれていた。


 なるほどな、そういうことだったのか。

 ギャルになった状態で俺と話すのが恥ずかしくてこれまで口を利いてくれなかったんだな。


「いくらなんでも一年間は長すぎない!? でも、なんで唯がギャルになったのか、なんで口を利いてくれなくなったのかが分かってスッキリした気がする」


 これで唯と話すためにはどうすれば良いのか分かった。

 恐らく唯はスマホを忘れたことに気づき、教室に戻ってくるだろう。そこで、俺が自分のスマホを持っていることに気づいたらさすがに何か言ってくるはずだ。


 俺にとってはそれが罵倒だって構わない。この一年間、喋りたくても口を利いてくれなかったのだから、今はどんな言葉であっても言葉を交わせるのなら嬉しい。

 ま、あの呟きの内容を見る限り、罵倒が飛んでくる可能性はだいぶ低いだろうけど。


 約一年ぶりに唯と話せる喜びで少しばかりにやけていると、教室のドアが開く音が聞こえてきた。

 もう少し遅くなるかと思っていたが、予想より早かったみたいだ。だが、良いタイミングではある。


 俺が教室のドアの方を振り向くと、唯が顔を真っ赤にしながら声を出せずに固まっている。


 そりゃそうだ。

 スマホを取りに教室に戻ってきたら、俺が唯のスマホを持っているうえに、自分が隠し通してきたはずのSNSアプリの裏アカの呟きが画面に大きく表示されているのだ。焦らないはずがない。


 数秒後、唯は声を震わせながら言葉を発した。


「も、も、もしかして、見ちゃった……?」

「うん、ごめん。唯がギャルになった理由と、口を利いてくれなくなった理由が知りたくて」


 唯はより一層顔を赤くし、今にも頭から湯気が出てきそうだ。

 勝手にスマホの中を見てしまったことは悪いと思うが、こうでもしなければ俺と唯の関係はずっとこのままだったかもしれないのだ。だから、許してくれ。


「そっか、見ちゃったんだね。ま、私が恥ずかしがって話せなくなったのがいけないんだけど。それで、感想とか……あったりするかな?」

「感想?」

「うん、私が一年前に聞くはずだったけど恥ずかしくて聞けなかった私がギャルになった感想」

「あ、そういうことね! もちろん、めっちゃ可愛いよ! 中学生の頃みたいな清楚な感じの唯も可愛かったけど、今のギャルな唯もまた違った良さがあって可愛いと思うよ!」

「褒めすぎ! 褒めすぎ! そんなに褒められたら私の頭がショートしちゃうから!」


 俺は思ったことを言っただけだったのだが、唯はここまで褒められると思っていなかったようで顔が先程より赤くなってしまっている。


 唯は何度か深呼吸をし、俺の方を真剣に見つめてくる。


「唯、どうした?」

「この一年間、話せなくて本当にごめんね」


 唯は深々と頭を下げ、謝罪をしてきた。


「大丈夫だよ。今まで話せなかった分、これからたくさん話そう!」

「うん、まだ少し恥ずかしさはあるけど私も海斗くんとたくさん話したい!」

「それじゃ、これからまたよろしく」

「うん、よろしくね!」


 俺と唯は教室で握手を交わし、中学生の頃以来に一緒に下校した。唯はまだ恥ずかしそうにしてはいたけど、たくさん話をしてくれた。


 もちろん、下校するときにスマホはきちんと返したよ。



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