第19話 学級交流戦

「こちらが図書館ですよ。沢山の本が貯蔵されていて、勉強のためになります」


「ほう……。俺も本は好きだ。利用させてもらう」


「ふふふ。私もよく使いますので会うかもしれませんね」


 レイラと共に俺は学園を回っていた。俺とレイラの後を今にも剣を解き放ちそうな雰囲気のエルミアが後をつける。


 正直視線が痛い。エルミアは俺がレイラに害を与えようとしたらすぐに剣を解き放つだろう。それくらいの鋭い殺気だ。


「そうも見つめられると背中がむず痒いなエルミア」


「私はお前に名乗ったつもりはない。私のことを気安く呼ぶな」


「エルミアったら名乗らないとダメですよ。代わりに私が彼女の名前を。彼女の名前はエルミア・トラロック。好きな風に呼んでください」


「レイラ様……!! 私があなたの事を思っての態度だというのに、私の名前を……!!」


 意地でも名乗ろうとしないエルミアに代わって、レイラが彼女の名前を名乗る。


 慌てながらレイラへそう言いよるエルミアに対して、レイラはまるで子供を叱りつけるような態度で……。


「エルミアはこれを機にその態度を改めるべきです! 以前もそれでトラブルを招いたじゃありませんか! 私のことを思ってくれるのはありがたいですが、もう少し柔軟な対応を覚えてください! いいですね?」


「うぐ……っ! わ、わた、わたしはただレイラ様のことを思って……!」


「まあいいだろう。俺はこういうのを気にしない。慣れているからな。そこまでの忠誠と曲げない意志にはある意味尊敬すら覚える」


 ……とここでエルミアを褒める発言をする。レイラとエルミアは驚いたような表情でこちらを見つめ、数秒の沈黙の後、エルミアが口を開く。


「……なんのつもりだ? 私を懐柔でもするのか?」


「ただ俺は思ったことを口にしたまでだ。その忠義忘れるな、お前はいい守護騎士になるだろう」


「……何を言われてもお前に傾くことは決してない。それだけは忘れるな。私がお前に名乗ることもな」


 僅かに頬を赤く染めながらエルミアはそっぽを向く。その様子を見てレイラはふふふと笑った。


「これは照れているんですよ。分かりにくいでしょう? 彼女」


「いいや……かなり……。いやなんでもない」


 エルミアの視線がやけに突き刺さるため俺は言葉を途中で切る。レイラはその様子を見て穏やかに笑うのであった。


 少しの間歩いて、俺たちは魔法学園が誇る大教会に到着する。魔法学園は様々なところから出資を受けて、設立、運営されているが、大きな出資者として神教が挙げられる。


 神教は信者を増やすために魔法学園内に大教会を建てているのだ。


「ここは大教会。お悩みとか、誰にも言えないことがあればこちらへ。我々神教がいつだって相談に乗りますよ」


「…………少し中を見てもいいか?」


「ええもちろん!」


 レイラはパアと表情を明るくさせて、大教会の中に入れてくれる。大教会の中は荘厳な雰囲気が漂っており、多くの生徒が中で神のお告げみたいなものを聞いていた。


『お兄様……一体どこにいるのかしら?』


(ニュクスか。どうやら気がついたみたいだな)


『……嫌でもね。恐らくお兄様が器であることはバレないでしょうが、あまり長くいないでね。少々……不快だわそこ』


 ニュクス——闇神は見た目は俺と分離しているように見えても、存在的な繋がりでは確かに繋がっている。


 大教会に足を踏み入れた時、俺が感じたものをニュクスも感じ取って、それで魔力による念話で話しかけてきたのだろう。


 この大教会には結界が敷かれている。俺とニュクスはこの中ではかなりの弱体化を受けるだろう……あくまで戦う場合の話だが。


 原作でも大教会は神教勢力にバフ、それ以外にはデバフ、闇神とかの邪教勢力にはさらなるデバフを付与する場所だった。


「どうですか? 中は凄いでしょう!!」


「ああ。思った以上に立派な作り込みで驚いた」


 レイラの言葉にそう返しつつ、俺は足元に視線を向ける。


 ここの地下、何かいる。


 クラウディアの魔力を見通す瞳ならばすぐに何かを気がつくだろう。けれどクラウディアは表向き神教を信じてる風を装っていても、本音は信じるどころか嫌悪している。ここに近づかないだろう。


 まあ第三王子との密約の内容があれだからな。嫌悪する気持ちは分からんでもない。


「感謝するレイラ。時間も時間だろうから、そろそろ教室に戻ろう」


「もうそんな時間でしたか。早く戻りましょうか」


 俺たちは教室へと戻る。案内で休み時間が終わりかけていたからだ。


 俺たちが教室に戻り、席に着くとほぼ同時。担当教師が中に入ってくる。教師は教壇につくと、早速こう切り出してきた。


「さて、前々から話していたが、学級交流戦の時期だ。交流といっても生やさしいものではなく、学級の力を見せつけるために、それぞれ本気で取り組んでくるだろう」


 学級交流戦というのは魔法学園で定期的に行われる、学級同士での模擬戦だ。学級の中から腕自慢を十人か選出し、二人一組、計五組に分けて、他の学級の代表と戦う。


 これの結果はかなり重要だ。ここで活躍すれば貴族としての格も上がるし、優れた魔法使いとして将来期待される。さらに学園のクラブとかにもスカウトが来るとか……。


 原作だと各方面への好感度上昇、経験値の付与、上位の成績を収めれば特別なアイテムが貰えるイベントだ。


「今年は転入生が各学級に入ってきた。それで、転入生を必ず転入生を代表に選出しなくてはならない。転入生と組んでみたいと思う生徒はいるか?」


 ……ちなみにこれ、カルファン本編でも聞いたセリフだ。カルファンの主人公がこの学園に入った時も、各学級に転入生が入ったから、転入生を必ず代表にしようっていう流れになる。


 しかし、来て間もない俺と組むようなもの好きはそうそういないだろう。模擬戦とは言え魔法を使ったガチの戦い。連携やコミュニーケーションが重視されるため、仲の良い人や戦い慣れた人と組むのが鉄板だ。


「はい! 私はエルミアをラインハルト君の相方として推します!!」


 ……そんな常識なんて知ったことではないと言わんばかりに、レイラが元気に手を上げてそう口にした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る