第18話 聖女と守護騎士
「よろしく頼む。まだ分からないことが多い。迷惑をかけるだろうが……」
「大丈夫ですよ。神教の名の下、人々を導くのが私の役割ですので」
と曇りなき眼で言われるけど、俺はこれから神教と争うつもりなんだよな。ただ、まあこの時点で同級生を無闇に邪険にする必要はない。
「人々を導くのが役割ということは一般信徒とは違うのか……? 浅学ゆえ教えてほしい」
「私は神教でも聖女と呼ばれる特別な立場の人間です。より多くの人々が救われるために、人を導くのが私の役割なのですよ」
レイラ・ミネルヴァは戦いと芸術の神の加護を与えられている。戦いと芸術の神は神教でも信仰されるべき善なる神で、その加護を持つレイラは聖女として幼くから育てられてきた。
「よろしければ今度、魔法学園の大教会で集会をしますので、是非来てください」
「ああ……感謝する」
机の中から出してきたビラを渡される。ビラとかあるんだ……って思いながらそれを受け取る。
レイラは神教のことを深く信仰している。それは表向きの神教だけで、神教の裏の顔までは知らない。第三王子との密約や、人体錬成に手を出そうとしていることも全て。
原作の彼女のルートは神教の真実と向き合う物語だ。レイラは自分のルートで神教のことを知るまで、模範的な信者であり続ける。
「レイラ・ミネルヴァ。後からラインハルトの案内を頼む。さじ加減はお前に任せる」
「わかりました先生。ではブラッディギアス卿、後ほど学園について案内させていただきますね」
「俺のことはラインハルトでいい。君をレイラと呼ぶ代わりだ」
「ふふふ。ではラインハルト君。よろしくお願いしますね」
微笑みながらそう口にするレイラ。神教のことを知るためにも、レイラと友好関係を築いておくべきだ。それにレイラが神教の真実を知れば……。
「待て。レイラ様、一人では危険です。私も同行してもよろしいでしょうか?」
レイラと俺の間割って入ってくる一人の女子生徒。紫の髪を後ろで一本に縛っていて、キリッとした強い目つきの少女。
ああそう言えばこいつもいたなと俺は思い出す。
レイラの守護騎士、エルミア・トラロック。天候の神の加護を持つ少女だ。
彼女もまたレイラ同様、神教を深く信仰しており、またレイラに心酔している。原作ではエルミアのルートも存在するが、条件を複数個満たさないと入れず、最もめんどくさいヒロインと言われるほどだ。
しかし守護騎士を名乗るだけあって、魔法と剣の技術は素晴らしいものだ。ふむ、剣技を取得するためにこいつをこちら側に引き込むのはありだな……。それにこいつの戦闘力は是非とも確保しておきたい。
「あらあら。エルミア、初対面の人にそんな風な目線を向けてはダメですよ」
「いいえ。彼、ブラッディギアス家は闇神と契約したと聞きます。闇神は我々神教とは敵対する存在の一つ。警戒すべきです」
「信仰によって人を判断してはいけないと言ってますのに……。誰が何を信じるかはその人の自由。我々はただその道標を指し示しているだけ。そこを行くかどうかは本人の選択を遵守すべきでは?」
「で、ですが……私はレイラ様のことを思って」
エルミアは俗に言う過激派だ。温厚なレイラに言いくるめられることは多いが、武力に自信がある分、敵味方の区別はハッキリとつけている。
「俺は構わないぞ。エルミア……とか言ったか? 君が同席しても」
「……お前みたいな闇神を崇めるような家系の出に呼ばれるような名はない。気安く呼ぶな」
「ダメと言っているでしょう!? 流石に私も怒りますよ!!」
「それだけは聞けませんレイラ様。私はレイラ様を守護する騎士。彼が神教に入るというならまだしも、邪教のままなら、百歩譲って斬らずとも、話すことはできません」
「……もう! 頭が硬いんですから!!」
この歳から筋金入りだったのか彼女。確かに原作だと少し闇神よりの勢力に行くと真っ先に敵対化してたもんな……。
「……まあ、俺はなんでも構わない。そちらで方針を決めてくれたらそれでいい。そちらの方が進めやすいだろう?」
「本当にごめんなさいラインハルト君!! いい人なんですよ……エルミアは。すごく真面目で強くて、努力は欠かさないですし、夜はぬいぐるみがないと眠れなくて……」
「お待ちくださいレイラ様!! そ、それは秘密の話でしょう!?」
顔を赤くしながらレイラへそう言うエルミア。彼女はその性格や口調からは想像できないほどの少女趣味だ。
しかしまあ、ここまで原作通りだと笑いが込み上げてくる。ついつい我慢しきれず肩を震わせてしまう。
「…………何がおかしい。斬られたいのかお前」
「俺と話すつもりはないと先程口にしたばかりなのに、随分と早く声をかけたものだな。前言は撤回するか?」
「〜〜〜〜ッッ!!! こ、この屈辱はいつか必ず返す!! とにかく私は反対しましたからねレイラ様!!」
エルミアは赤面しながらそう口にした後、ズカズカと歩いて自分の席に戻る。
「ごめんなさい私の守護騎士が……。本当になんて言っていいか……」
「いい。面白いものが見れたと思えば満足だ。それで? 案内は頼めるのか?」
「ええ。エルミアにはなるべく温厚な態度であるよう説得しますので、どうかよろしくお願いします」
と頭を下げるレイラ。ここでエルミアに怒って、レイラとの好感度を下げても意味はない。エルミアがああいう態度を取るというのはわかっていた分、すんなりと受け入れられるというものだ。
「こちらこそ。では後から案内頼む」
こうして俺の魔法学園生活は始まる。そして同時に自分の勢力を作るため、最初に引き込む人物が決まった。
エルミア・トラロック。あの守護騎士を俺の最初の戦力としてやろう。
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