第二章

第17話 魔法学園へ

 クラウディアの誘い。パーティーの終わりから、かれこれ一年近い時間が経過した。


「編入生祝辞。編入生代表、ラインハルト・ブラッディギアス」


 俺は今、千を越す生徒、教師、貴族達の前に立っている。なぜ俺が祝辞を言うために壇上に立っているのか、それは少し前まで遡る。



***



「よくやったラインハルト!! 魔法学園からの通知だ! 合格だぞ!!」


「ありがとうございます父上。手紙をいただいても?」


 俺は父から魔法学園からの手紙を受け取る。そこには魔法学園の試験結果と、合否について書かれていた。試験結果は平均よりやや上、合格と書かれている。


 俺が手紙を見ていると、ヴラドの視線が俺の隣に向く。ヴラドはふりふりの黒いドレスを着た少女に向かってこう口にした。


「ああ。それとお前も合格だ! 合格とはブラッディギアス家も安泰だな!!」


「うふふふ。ありがとうございますお父様。お兄様、学園生活楽しみですね」


「ああ…そうだな」


 俺はニュクスと呼ばれた少女から目を逸らす。


 黒髪ロングに赤い瞳、雪のように白い肌に、吸血鬼を彷彿とさせる八重歯。


 ニュクス・ブラッディギアス、またの名を闇神。こいつは今俺の妹を名乗っている。というか魔法で周囲をそう認識させている。


 俺とニュクスはヴラドへ一礼した後、父の執務室から出る。ニュクスは部屋を出た途端、ふふふと笑い始めた。


「……何がおかしい」


「いやね、随分と動揺した顔が見られると思っただけよ。不思議ね人間というのは、呼び方一つ変えるだけでこうも反応を変えるから……ね、お兄様」


 お兄様と呼ばれて、激しくなる鼓動を必死に抑えようとする。


 ニュクスが人間の身体を得たのはつい数日前。傀儡化した人間からの魔力、そして悪夢の種を植え付けた第三王子の魔力から、人間の肉体を構成した。


 人間の身体はあくまで仮の姿。本体は以前俺が入った闇神の領域のまま。本人曰く、魔力も魔法もかなり制限されているから完全な顕現には程遠い模様。


「しかし……魔法至上主義を謳いながらも、魔法使いのレベルはお粗末ね。神の加護をもらっても、まるで使いこなせていないような低レベルばかりだわ」


 ひらひらと自分の試験結果を俺に見せながら、ニュクスはそう口にする。魔法試験満点……満点!?


「おま……本気は出していないだろうな?」


「するわけないじゃない。あくまで人間のレベルにわざわざ合わせたのよ。本気の一割未満よ一割未満」


 ニュクスが本気で魔法を使ったとすれば、それはもう大騒ぎになるだろう。せっかく手に入れた人間の身体も無駄になってしまうかもしれない……。


 そんな事態、彼女自身が起こすわけもないか。


「お兄様は平均よりもやや上なのね。どうしてかしら? 自分の勢力を作るなら実力をもっと発揮すべきだと思うのだけど?」


「俺の力に縋ってくるような弱者はいらんからな。俺の側に置くやつは慎重に選びたい」


「そういうものなのね。あ、そうそう。この転入生祝辞とやら、私はこういうのはいいからお兄様に権利を譲るわね」


「……は? お前何を勝手に!?」


 魔法学園に送り返すであろう一枚の用紙。ニュクスは祝辞の辞退と、自分の代わりとして俺を推薦する文を書いていた。


 それを俺は取り上げようとするが、すぐにニュクスは手のひらに闇を作り出して、その中に用紙を入れてしまう。


「残念でしたお兄様。さっきの用紙は今頃魔法学園でしょうね。転移させておいたわ」


「ふざっ……!! んんん!! まあいい。くそ、こんなことになるならもう少し本気を出しておくべきだったか……?」


「いいじゃない、いいじゃない。優等生の妹と劣等生の兄。実は兄の方が強いっていうのはお約束みたいなものでしょ?」


「お前また俺の記憶を……。まあいい。やってやるよ。祝辞程度、簡単なことだ」


 ニュクスはたまに俺の記憶を覗いては、ラノベのセリフとかを引用してくることがある。今の姿と声だって、原作の闇神のモデルと俺の好きだったキャラから、作り出したそう。


 愉快げに笑う顔を見て、イラつかないどころか、あ、なんかいいなこれって思っているのは全てニュクスの思惑通りだ。


「期待しているわよお兄様。さて、私を見たらどんな反応をするのかしらね、あの女は」


「頼むから話をややこしくするなよニュクス。楽しむのは結構だが、うっかり正体バラすとかやめてくれよ……?」


「ええ、それは問題ないわ。ちゃんと守ってあげる。お兄様のためにもね」


 ウィンクしながら言うニュクス。その仕草は心臓がいつもより大きく鳴った。



***



「以上で祝辞を終えます。皆様ありがとうございました」


 人前に立つのは慣れていないが、冷静にこなせたとは思う。俺が自分の席に戻るまでの間、ニュクスとクラウディアを見つけたが、こいつら離れた席なのに、俺を見て少し笑ってやがる。


 そんなこんながあって、入学式は終わり、俺たちは教室に案内される。


 この魔法学園はとにかくでかい。その分、そこに通う生徒も多い。


 魔法学園の初等部、中等部、高等部、学院部の割り当ては現代日本の小学生、中学生、高校生、大学生と同じだ。


 十一歳になる俺とニュクスは初等部五年生からのスタートだ。ニュクスは歳、めちゃめちゃ詐欺ってるのだけど……。


 ニュクスはAクラス、俺はBクラスに編入される。ちなみにクラウディアはAクラスだ。


「では諸君、今年も編入生が入ってくる。今年の編入生は二人、Aクラスにニュクス・ブラッディギアス、そして我々Bクラスにはラインハルト・ブラッディギアスが編入される。ラインハルト、何かあるか?」


「特には。この学園で精一杯学ぼうと考えています。よろしくお願いします」


「いい心意気だ。では……あそこの席が空いているな」


 Bクラスに入った俺は教師の言う通り、窓際の一番後ろの席に向かう。席に座ると隣の席の女子生徒がにこりと微笑みながら話しかけてくる。


「初めましてブラッディギアス卿。私の名前はレイラ・ミネルヴァ。気軽にレイラとお呼びください」


 三つ編みにされた金髪、蒼い瞳が特徴的な女子生徒。少し大人びていて、聖女のような雰囲気を出している彼女。レイラ・ミネルヴァ。


 彼女は神教の聖女であり、カルファンのヒロインの一人だ。


ーーーー


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

 今日から第二章開幕です! 

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