第15話 第三王子の密約

「いや……まさか。ですが、私が知らないことを伯爵家に過ぎない貴方がなぜ……?」


 クラウディアはこれから起こるであろう出来事を予感し、同時に困惑していた。俺はそんなクラウディアをよそに、第三王子へ命令を言い渡す。


「おい、なぜこの女と縁談を結びたがる? 答えろ」


 その言葉に対して、ギギギと鈍い動きで俺たちに視線を向けた後、第三王子は無機質な感情がこもっていない口調で話し始める。


「俺がクラウディア・ミア・アイテールを欲しがる理由は魔法の才能ゆえだ。王位を継承するにはより優れたパートナー、より優れた子を成せる伴侶が必要だ。彼女はそれに相応しいと思った」


「キヒヒヒ……それだけじゃないだろう? お前がこいつを欲する理由は」


「か、彼女との婚約……彼女の遺伝子は神教が欲しがっている。彼女の遺伝子の定期的な提供。それが俺と神教の間で結んだ密約。

 俺は次期国王に押しあげてもらうため、神教とそういう密約を結んだ」


「……神教? そこでなぜその名が……」


 第三王子は次期国王の座を狙っている。そのための伴侶がクラウディア。優れた魔法の才能を持つ者同士が子を成せば、その子は魔法に優れた才能を持つ。


 クラウディアは体の代償さえなければ絶好のパートナーということだ。そう


 そこで上がった神教という名。ただクラウディアはそこで何故神教の名前が出てきたのかが謎のようだ。


「第三王子的にはお前では次期国王になるための一押しが足りない。幾ら魔法の才能に長けていても、体の代償がつきものだ。それが子に遺伝してしまっては、幾ら魔法至上主義とはいえ、優れた王子とは呼べないからな」


「だとしても何故神教に……?」


「こいつに全て話してもらおうか」


 俺とクラウディアの視線が第三王子に向く。


「第三王子。お前は神教と繋がって何をするつもりだ? クラウディアの遺伝子を神教に提供して何をするつもりだ?」


 第三王子は淡々とした口調で話し始める。自身が立てた狂った計画を。


。より優れた魔法使いを生み出すための遺伝子提供。それが俺と神教の密約だ」


 神教革命。そのトリガーは第三王子だ。


 第三王子が神教にクラウディアの遺伝子を提供すること。神教は自らが禁忌としているはずの人体錬成に手を出し、無数の軍隊を作り出す。


 ラインハルトは神の器だったがゆえにその生み出された軍隊と戦うこととなる。それに敗北したラインハルトは異端者認定を受けて、国外へ追放されてしまう。


 本来の計画なら貴族の後ろ盾を作り、神教から狙われないようにするつもりだったが、クラウディアとの繋がりができ、第三王子を魔法にかけたことで新しい絵が生まれた。


「わ、わたっ、私の遺伝子で人体錬成……!! つまり私はどこまで行ってもこいつの!!」


 口調が乱れるほどに怒るクラウディア。次期国王になるため、禁忌に手を染め、秘密裏に神教にクラウディアの遺伝子を提供しようとしていた第三王子。


「こいつが成り上がるための道具にされようとしているのだ。さらにこいつは用さえすめば、お前のことを切り捨てるだろうな。そうだろ? 第三王子」


「あ……ああ。俺がクラウディアの遺伝子を提供する代わりに得るものは二つ。

 一つは次期国王の座。神教は信者の力を使い、必ず俺を次期国王まで引き上げてくれる。

 もう一つは完璧なクラウディアの提供。俺を愛し、俺を認め、肉体の不自由がないクラウディアを神教はつくってくれると約束した」


 クラウディアは拳を強く握りしめる。第三王子の目的。それが彼女の怒りを限界点まで引き上げた。


「……ッ!!」

『凄まじい魔力ね。まさか、魔力の滾りだけでパーティー会場に傷をつけるなんてね』


 闇神ですら凄まじいと評するほどの魔力。


 クラウディアの身体から解き放たれた魔力は、パーティー会場のあらゆるところに亀裂を生んでいた。

 それも柱みたいなこれを壊せば倒壊するだろうというところは必ず亀裂が入っている。


「ラインハルト・ブラッディギアス。貴方は私に言いましたね? 私を第三王子から奪ってくれると」


「ああ言ったな。それがどうかしたのか?」


「奪うなんて生やさしい言い方はしませんわ。

 私が求めるのはこいつの破滅。そして裏で手を引いている神教、それの殲滅。貴方にはそれができますか?」


 第三王子を破滅させ、国教でもある神教を殲滅してほしい。クラウディアの瞳はただそれを望んでいた。


 イカれた女だ。まさかそこまで求めるとは。


 けれど面白い。俺たちはこれを断るわけがない。どうせだ。徹底的に奴らを潰してやろうじゃないか。


「キヒヒヒ……アハハ……キャハハハハハハハ!!! イカれた女だクラウディア!! とても十歳のガキの思考とは思えないが面白いのってやろう!! 俺にとっても利がある話だ。ただし……!」


「ええ、私の全てを貴方に捧げますわ。アイテール家の名を持って、貴方を全力で支援し、貴方を全力でお守りすると約束しましょう」


 後ろ盾という本来の目的を達成され、アイテール家からの支援を受けることができる。


 少し面倒ごとは増えたが、準備する時間はまだある。使えるもの全てを使い、神教革命をこれ以上ない形で乗り切ってみせよう。


「さあ、クラウディア。俺と共に踊る覚悟を見せてみろ」


「ええ。そのつもりで。貴方のためならば幾らでも踊ってあげましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る