第13話 第三王子

「さて、あまり二人きりになっていては悪目立ちしますね。一旦戻りましょうか」


「そうだな。お前を奪うと言った以上、貴族の関係図など知りたい。一旦戻るか」


「あら。ふふふ、早速熱を出してくれるようで私は嬉しいですよ」


 第三王子との縁談を無かったことにし、クラウディアを俺の女とする。先も言ったがかなり難しいだろう。


 そもそも俺は第三王子のことをあまりよく知らない。というのも本編や外伝であまり出てこなかったし、設定資料集にもおまけ程度の扱いだったからだ。


「このパーティーに第三王子は来ていないのか?」


「…………来てると思いますわええ。家の都合上、招待状は送りましたので」


 長い沈黙の後、クラウディアはそう答える。


 第三王子と会うのがそんなに嫌なのか? 僅かに頭を抱える姿もこれはこれで悪くない。


 扉を開けてパーティー会場へと戻る。俺たちに視線が集まったのは一瞬。その視線はすぐに噂の人物へと流れることになる。


「おお!! 我が愛しのクラウディア!! 招待状を送りつけたというのに俺が来るところにいないなんて、何と言う罪な女だ。でも許そう! お前の花のような可憐さに免じて……な?」


「大変失礼しました。第三王子の寛大な心に感謝いたしますわ」


「ノンノンノン。俺のことを何と呼べと言った?」


「……フール様」


「そうだとも! やはりお前の口から呼んでもらう名前は格別だな!!」


 うわ、一連のやり取りめちゃめちゃ不快だと言葉にせずともオーラで分かる。


 短く切り揃えられた金髪、痩せ型長身の身体。そして声がデカく、イントネーションの付け方が独特すぎる。


 話し方がナルシストっぽい。と言うよりも自分に酔っているような態度からしてナルシストなのだろう。


 もう少し観察を続けたいけど、クラウディアの近くにいたら何か絡まれかねない。ここはそっと会場の人混みへと紛れ込むようにして……。


「おっ……と。クラウディアのあまりの美しさに見惚れてついついお前のことを忘れてしまいそうになったよ。俺の知らない男が、何故我が愛しのクラウディアと共にいる?」


 クラウディアへ対する態度から一変。キッと睨みつけるように第三王子の視線が俺に向いた。


 うわーめんどくせー。と思いつつも、ここで無言のまま立ち去ったら面倒なことになりそうだ。


 かと言って第三王子のプライドを刺激してもめんどそう。上手く乗り切らないと破滅へまっしぐらだ。


「……そ、【お前には関係のないことだ】」


 何か穏便に収めようとした時だ。


 ラインハルトの本能が俺の口を使ってそう言いやがった!!


 まあ確かにラインハルトが穏便に収めようとする選択するはずがない。面白い、想定外の出来事だがこの状況乗り越えてみせよう。


「な……っ!! お、俺とクラウディアの関係性を知らないとは……どこぞの家か分からんが、世間知らずというのは」


「そこまで大切なら首輪でもつけて管理していればいいだろうに。それともお前はそれすら出来ない無能なのか?」


「む……お、お前!! どこの家の奴だ!? 不敬だぞ!!」


 クラウディアが俺の後ろで静かに笑っている。第三王子のプライドがズタボロにされて大声を上げている姿が滑稽で仕方ないことなのだろう。


「ほう? ならそこの公爵令嬢から何もないのはなんでなんだろうな? ただならぬ関係と言うなら話に割り込んで来ないのは不思議で仕方ない。なあ?」


「彼は個人的に興味がありまして、つい話込んでしまいました。それのどこに責められるようなことがあるのでしょうか?」


「な……なあ!? クラウディア! お前と俺は縁談を……!!」


「まだそれについてはご返事しておりませんが……。そう言った話はあるというのは否定致しませんが」


「ぐ……ぐぎぎぎぎ……!! お前達には王族である俺を敬うことはできんのか!? 俺は王族なんだぞ! 偉いんだぞ!!」


 思わず笑いが込み上げてくるような言葉だった。第三王子、話してみるとこいつはとことんまで愚か者だ。


 生まれだけで偉い? なんだその傲慢は。見るに耐えない。実力が伴っていない傲慢さなど、ただの愚かでしかないことを教えてやろう。


「キャハハハハハ!!! 悪いが嘘を言うのは苦手でな。魅力的ではない奴を魅力的に語れるほど器用ではないんだ。すまないな」


「ええ、私達正直者ですもの。嘘は言えないですからね」


「そ、それはお、おまえ!! クラウディアまでなんてことを言うんだ!? お、俺に魅力がないとでも言うのか!? ふ、不敬だぞ!!」


 二人揃ってどの口が正直者だと言ってるんだが。クラウディアは悪魔的な笑みを浮かべて俺にウィンクしてきた。こいつ楽しんでいるな?


 ならばもっと踊らせてやろうか。


「おっと……流石に勘が悪そうだったからわざわざ遠回しに言ってやったのだが……意外にも気がつくのが早かったな? もしかして薄々はそうじゃないかと気がついていたりしてな」


「う……うるさいうるさいうるさい!!! 不敬だ! 不敬だ! 不敬だ!! 俺は偉いんだ! 俺は王族ですごいんだ!!」


「生まれだけでしか語るものがないとはな!! これほどまでに滑稽なことはないぞ!! 笑わせる!!」


「ぐぎぎぎ……!」


 第三王子が拳を握りしめて、身体をわなわなと震わせる。そして次の瞬間、唾を飛ばしながら大声でこう口にする。


「え、衛兵!! この二人を捕まえろ!! こいつは王族である俺を馬鹿にした!! 不敬罪だ!!」


 そう口にした瞬間だ。


 ラインハルトがニヤリと笑ったのが俺でもわかる。俺たちは一回だけ手を叩き、こう口にする。


「そうか……そうか。ではお前は【おしまい】だな」


 ——現実と幻が反転する。


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