第12話 クラウディアの目的

「俺を知りたいか……。知ったところで幻滅するかもしれないぞ?」


「貴方がそこらの貴族と同じでしたら、私の見込み違いだったということですわ。でもそうじゃないと確信しています。だからどうか」


 俺のことを知りたいと言われても何から話そうか。


 正直彼女の期待が勝ちすぎている。ただ……面白い。


 ミステリアスで周囲とは違った何かを持つ公爵令嬢。そんな彼女が年相応に目を輝かせながらそう口にしたのだ。その期待、飛び越えてみせよう。


「そうだな。俺にはこれから起こるであろう未来が分かっていると言ったら信じるか?」


「ええ。しかし未来ですか。大きく張りましたね。例えばどんな未来が分かるというのですか?」


「お前は第三王子と婚約することになる。そう遠くないうちに。もうそんな話は出ているんじゃないか?」


「へぇ……」


 クラウディアは短くそう言うだけ。


 この情報は設定資料集に書かれていたことだ。クラウディアは12歳に第三王子との婚約が決まる。


 クラウディアはこの婚約のことをよく思っていない。何故なら第三王子は……。


「お前は何とかしてその婚約を退けたいと考えているな? なにせ第三王子はお前が嫌う醜い貴族そのものみたいな人間だ」


「とても正気のような発言ではありませんね。私が第三王子にこのことを口にすれば、貴方だけではなく、ブラッディギアス家そのものがなくなるというのに」


「だがお前はそうしない。お前はそこから連れ出してくれる人を待っているのだから。年相応に可愛いところがあるじゃないか」


「なっ……!」


 年相応に可愛いという言葉に反応して、頬を赤く染めながらそれを手で覆い隠すクラウディア。うむ、こう言う顔をするのが分かっただけでも十分だ。


「キヒヒ……いいぞ。あとは何が知りたい? 俺の何をみたい?」


 笑い声が漏れるところだったあぶねえ……。


 クラウディアは会話の主導権を取られていることに気が付いたのか、すぐさま表情を元に戻すと彼女はこう口にする。


「いや、今ので大体理解したわ。

 貴方は私では制御できない底なしの化け物ということが」


「……褒め言葉として受け取っておこう」


 過剰評価すぎないか? というか聞く人によっては悪口だぞそれ。


 でも不思議と悪くない。それは俺だけではなく、ラインハルトの本能もそう感じていたようでついつい笑い声が漏れ出してしまいそうになる。


「それでお前は俺に何を求める? お姫様願望だけではなく、支配欲も掻き立てられたと俺はみているが」


「ふふふふふ。そこまで見抜きますか。ええ、貴方と出会ったあの日。あの日から私はどうしようもなく貴方がほしい。けれど、上手くはいかない。貴方へ縁談を出そうにも……公爵令嬢という立場が厄介でしてね」


 縁談出そうとしていたのか……それも下位の伯爵家の次男に。


 クラウディアはふぅとなにかを決めたかのように息を吐き出すと、俺の目を強い意志を持って見る。


「私を奪いに来てと言ったら貴方は来てくれますか?」


 言葉の意味を分からないほど、俺も鈍感ではない。


 それをわざわざ俺に言ったこと。どうやら俺は彼女のお眼鏡にかなったようだ。


 破滅を回避する。その目的だけで言えば、彼女の頼みは切り捨てるべきだ。何故なら下手を打てば敵を増やし、より破滅に近づくから。


 しかし求められた以上、それに応えるのがラインハルト・ブラッディギアスという男。俺は少なくともそう思っている。


 ——ならば俺が応えるべきは一つ。


「いいだろう面白い。乗ってやる。ただし、お前は如何にして?」


「……そう、来ますか。いいでしょう。私はこの腐敗した貴族共を一掃しましょう。真に強き貴族のみが生き残る。そんな世を必ず作ってみます」


 その言葉は妙な偶然なのか。本編において成長したクラウディアが口にしていたものとほぼ同じであった。


 腐敗した貴族社会に絶望した彼女はどんな手段を使ってでも腐敗した貴族達を一掃しようとする。あるルートはラインハルトを始めとする物語の黒幕達と手を組み、彼女自身のルートでは主人公と手を組む。


 その目的に彼女が達するのは本来ならもう少し先なのだが……まさかこの時点でその目的を抱くとは思ってもいなかった。しかし、これはいい。


 破滅を回避するのが目的。しかし少しずつ歯車は狂って、俺の知らない物語へと進み始めている。


 これは間違いなく俺の行動の結果であり、それがどんな結末をもたらすのか今は分からない。ただ何かが変わりつつある。


「キヒヒ……アハハ……キャハハハハハハハハハ!!! いいぞいいぞ! 面白い女だ!! 随分と大きく張ったな!!」


 愉快なことこの上ない。


 さて、クラウディアがそこまで大口をいったのだ。彼女が求める通り、彼女を奪ってやるとしよう。


「いいだろう、俺が許す。俺がお前を女にしてやる」


 ついつい興が乗ってしまい、俺はクラウディアを壁ドンしていた。吐息の音が聞こえてくるような超至近距離。


 クラウディアはそんな中でも動揺は一切していなかった。期待した眼差しで俺を見つめ返している。


「ああ……とても素敵ですわ。では待っていますよ、私をここから連れ出してくれる、その日を」


 恍惚とした表情でそう口にするクラウディア。


 さて、こうなったからにはクラウディアを第三王子から奪う算段を立てなくてはならない。


 ……難易度高えな。

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