第9話 Sideクラウディア 彼が欲しい

 彼を初めて目にした時、私が感じたのは異質さでした。


 貴族達が集まる初等魔法学園。私はアイテール家の長女として、次期当主を継ぐに相応しい魔法使いとなるべく、7歳の時からここに通っていました。


 けど、貴族といえど話す内容は年相応のもの。流行りの服や装飾品、街中にできたカフェやレストラン、時には冒険者や魔法使いの活躍……はっきり言いますと私の心に響くような話題は何一つとしてありませんでした。


 ただ公爵令嬢という手前、笑顔でそれらを聞いて、心にもない言葉で返す。私——クラウディア・ミア・アイテールの日常は酷くつまらないもの。


 私は生まれつき弱い身体です。特に筋力が日常生活に支障をきたすほどで、常に強化の魔法をかけていないと歩くことさえままなりません。

 しかし、そんな不自由な肉体の代わりに、私が生まれながらにして授かった力。


 それは膨大な魔力と、他人よりも優れた瞳。まだ未覚醒とはいえ、いずれは魔眼と呼ばれるに至るだろう魔力を宿した瞳。


 今では見た人の能力を測るしか出来ませんが、この瞳を完成させてアイテール家……いいえ、私の立場を不動のものとする。それが私の目的。


 まあですが、才能がありすぎるのも問題で、みんなが授業を受けなければ使えない魔法は大体一瞬にして身につけてしまうのです私。

 初等の実技授業では物足りなくなったわたしは、いつの日か体調を理由にしてサボり始めました。常に成績トップの私を咎めるような人は誰もいません。


 実技授業の間、それは私に与えられた数少ない自由な時間。公爵令嬢というしがらみを忘れて、自分自身と向き合えるとても貴重な時間。


 そこで私は出会ったのです。彼、ラインハルト・ブラッディギアスに。


 感想は底が見えないでした。


 魔法の才能があるわけではない。この学園では精々並かそれ以下。しかし底知れない何かを秘めている。


 私と同年代なのに、周りの空気から切り離されたような異質。否、異物。故にだからこそ、私の瞳は釘付けになりました。私が知らないもの……それだけで理由は十分です。


 欲しい……欲しい。いつの間にか私の心はそう、声なき叫びをあげていました。

 一歩間違えてしまえば破滅していなくなってそうな、ある意味脆弱とも呼べるような彼。そんな彼が心から欲しい。


 声をかけたのは正解でした。


 私が持つ瞳と同じくらい、もしくはそれ以上でしょうか。彼は私のことを見抜いてくる。

 短いやり取りの中に織り交ぜた真実と嘘を交えた巧妙な嘘でさえ、彼は即座に見抜いてきました。


 同年代との会話でここまで会話が弾んだのはある意味初めてです。ああ、これが皆さんのいう恋というものなのですね。私はどうしても彼が欲しい。


 彼ならばきっと長い退屈から私を連れ出してくれる。


 私の孤独をきっと埋めてくれる。ああそれはなんて刺激的なのでしょう。心が躍って仕方ありません。


「お父様。私です。クラウディアです」


 気がつけば寮内にある電話で、お父様に電話をかけていました。アイテール公爵、私と違い、大した才能もなければ人を惹きつけるカリスマもない、無能なお父様。私が生まれなければ公爵家であることを維持できない悲しい人。


 ですがそう言った人を上手く使ってこそ、私の実力が試されるというもの。父も、兄も、妹も、弟も。使える物全て使って、私は私のアイテール家を絶対の物にする。この立場を不動の物とする。彼が聞いたらなんでいうのでしょうかね。


「私、お父様に頼みたいことができました。

 ある伯爵家の動向を逐一探って報告してもらいたいのです。ええ……本当ですか! ありがとうございます! お父様!」


 甘えるような声で、お父様が私の頼み事を聞くと反応すればややオーバー気味に喜んで、年相応の姿を見せながら私はお父様へこう告げます。


「ええ、ブラッディギアスという伯爵家について調べて欲しいのですお父様。なるべく、足がつかないように……お願いしますね」

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