第40話 キラキラして


「二宮さん、どうしたの?」

「あ、用があるのは三条先輩じゃなくて、如月先輩なので」


 やっぱりそうか。ていうかスンってならなくてもよくない?

 でも、いったい朝のこの時間から、しかもこの状況でなんなのよ


「如月先輩…」

「うん…どうしたの?」

「今日の放課後…少し…お時間いただけませんか…?」

「いいけど…」

「あ、ありがとうございます」


 去り際、私の方をチラっと見て、すぐ目を逸らして早足で行ってしまう二宮


 …これは、あれだな?




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 放課後。

 教卓の前に座る彼は、いつものように教室を出て行く。でもその表情はどこか、朝の二宮のように緊張して、眼差しも真剣そうに私には見えた


 ちなみに、席替えした並びはそのままなので、隣には坊主頭の神楽坂くんに、あの女の子達もそのままいたわけだけど、私に話しかけることもなく、静かなものだった


 神楽坂くんはホームルームが終わると、逃げるように帰って行ったので既にいない。

 彼女達もバツが悪そうにしつつも、二人で帰って行った



 さて。これからどうしよう


 二宮はたぶん間違いなく、彼に告白するのではないかと思う


 もちろん告白するのは自由なわけだし、それを受けるか受けないかは颯馬くん次第。

 うん。それは分かってるんだけど、やっぱり気になってしまう


 私は悪いとは思いつつも、鞄を手に取ると彼の後を追った




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 二人は、颯馬くんがいつもお昼を過ごしている、駐輪場近くの階段の上にいた。


 普段は人が来ないような場所だけど、今は放課後で自転車で帰る生徒もいるから、それで上に行ったんだと思う。

 あそこなら人目にも付かないし、確かにいいとは思うけど、おかげで何も聞こえない…


 仕方なく、私は離れた場所から様子を伺うことにした



 少しして「カンカン」と、外階段を勢いよく下りる音が聞こえ、彼女はそのまま走り去って行く


(…これは、断ったのかな…)


 ホッとするのと同時に、私はなんだか複雑な気持ちになった


 二宮は…最初は生意気な子だな、って思ったけど、本当に颯馬くんのことを好きになってからは、彼の前に出る度に恥ずかしそうにもじもじして、私から見ても、正に恋する乙女の姿そのものだった


 ライバル…と言えばそうだけど、それでも、私が好きになった人を、同じように好きになった子なんだ。

 上手く言えないけど、あの子も本当はいい子だったんじゃないかな、と思える


 そんな二宮の、さっきみたいな寂しい姿を見てしまうと、私もちょっと辛くなる。

 それに、あんな可愛い子を振るなんて…それなら、颯馬くんはいったい誰を…



 考え事をしてたから、私が気付いた時には、もう階段から下りてきた颯馬くんがこちらを見ていた


(あ…覗いてたのバレた…)




「伊織さん…?」

「や、やほー…」


 焦り過ぎて変なテンションになってるな…


 ど、どうする?!

 うまい言い訳なんて思いつかないよ!


「あ、あの…二宮さん…行っちゃったよ?」

「そうだね…」

「えっと…ごめんね…」

「何を謝ってるの?」

「だ、だって…」


 だって!色々と申し訳なく思うわよ!

 はあ…やっぱり見に来なきゃよかった…


 文字通り、穴があったら入りたくなってる私に、彼は少し頬を赤く染め、


「…話がしたいんだけど…ちょっとだけいいかな…」

「え…」


 その表情は、私が今まで見てきた颯馬くんのどの顔よりも真剣で、そして、私にはキラキラして見えた




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