第39話 あらら…
翌朝、昨日のことも気になってたし、普段より早めに目が覚めてしまった。
四方堂先輩はああ言ってくれてたけど、やっぱり心配なのものは心配。
支度を終えて家を出て、いつもの時間に駅に着いたけど、まだ颯馬くんは来ていない。
私は電車を見送り、彼を待つことにした。
それから10分くらいしたら、颯馬くんはやって来て、私に気付いてくれる
「おはよう、伊織さん…」
「颯馬くん、おはよう」
私が「昨日は嫌になっちゃうよね」と話しかけても、「そうだね…」と、いつもより歯切れが悪い彼
「どうかした?」
「ううん…別に何もないよ…」
私から顔を背けて、でもそこから見える彼の耳は赤くなっている
…そういえば、昨日四方堂先輩には何を言われたんだろう…
「あの…昨日、先輩に何言われてたの?」
「え!?いや、あの…特に伊織さんのこととか関係なくて、もっと見てあげなさいとか、鈍すぎるとか…え?それは違くて、いや、そうなんだけど…あれ…な、なんでもない…」
…なんでもなくないでしょ、それ
見てるこっちが可哀想になるほどあたふたしてて、無性に抱き締めたくなるのを必死に我慢する
「そ、そう…」
「うん…そう…」
何が「そう」なのか分からないけど、とりあえず私まで恥ずかしくなってきたから、それでよしとすることにした
電車の中では、相変わらず私を守るように立ってくれる彼。チラっとその表情を伺うと、ちょうど颯馬くんも私の方を見てて、目が合っちゃって慌てて視線を外す私達
な、なによこれ…
こんなの…こ、こんなのって…!
えへへ…
この時は、昨日のことなんてもう頭の中には残ってなくて、ただニヤけそうになる顔を取り繕うのに精一杯だった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
駅に到着し歩いて学校に向かい、暫くして校門が見えてくる。
いつものように、四方堂先輩は登校する生徒達に挨拶していた
「二人とも、おはよう」
「四方堂先輩、おはようございます」
「お、おはようございます…」
「如月くん?顔、赤いわよ?」
「大丈夫です!」
「ふふ。三条さん?」
「はい…」
「面白いことになってるから、楽しみにね」
「はい?」
先輩はニヤリと少し悪い笑みを零し、でもすぐさま元通りになると、他の生徒達に挨拶し始めた
「…颯馬くん、行こうか」
「うん…」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
昇降口で靴を履き替え、私達の教室のあるフロアへ階段を上っていく。
けど、教室が近付いてくるにつれ、なんだか騒がしくなってきた
「何かあったのかしら」
「どうしたんだろ…」
「早く行ってみましょう?」
歩くスピードを上げ廊下に出ると、まだ朝のホームルームまでに時間はあるけど、それにしては見たことないくらいの生徒達が集まっている
私は近くにいた生徒に声をかけた
「あの、何かあったの?」
「あ、三条さん。大変だよ」
「どうしたの?何が大変なの?」
「う、うん…あれ見てよ」
言われて彼女が指差した方を見ると、どこかで見たことあるような顔の、坊主頭の男子が、私達の教室の扉の前に立っていた
ああ、あの男子が邪魔で、みんな中に入れなくて困ってるのね?
「どこのクラスの男子?邪魔よね」
「え…あの、三条さん…?」
「え?」
「あれ…神楽坂くんだよ…」
「はい?」
確かによく見てみると、うん、間違いなさそう。でも、これはいったい…?
顔を真っ赤にして、プルプルと震えながら立ってたけど、私達に気が付くと、神楽坂くんはこちらに向かって歩きてきた
「神楽坂くん…?そ、その頭は…」
「…昨日は悪かった。どうか…許して欲しい…。それに、もう二度とちょっかいは出さないと…誓う…」
あらら…これはこってり絞られたわね…
「くっ…!」っと、奥歯を噛み締め、屈辱に耐えるかのような彼の姿に、さすがにちょっと可哀想に思えてきた
…でも、そうは言っても自業自得
「そう。それで?」
「え…」
「頭を下げるのは私だけなのかしら?」
「っ…!」
「クラスのみんなが、あなたのやったことに腹を立ててるわよ?」
私に言われて、明らかに嫌そうに、渋々謝ってるけど、少しは懲りたのかな?
「如月くん、行こ?」
「え…ああ、うん、伊織さん」
「うん…うん?」
え?いつも二人きりの時だけ名前で呼んでたはずなのに、今ここ、けっこう人いるよ?
「え?え…ちょっと…どうしたの?」
「う、うん…」
「うん…」
「うん…」
「うん?」
話が進まないわよ!
「あの、だから…名前…で、いいの?」
「…うん…やっぱり…駄目だったかな…」
「そんな、駄目じゃないよ…」
「うん…」
はあ……嬉しい…触りたい…手繋ぎたい…
…だからそういうんじゃなくて、急にどうしたっていうのよ
「あの…どうして…」
「うん…おねえ…ぅ…四方堂先輩は関係なくて…その…なんて言うか…」
これは…これはもしやそういうこと?
私はいつでもOKだよ!!
「先輩…」
「「え?」」
私達が同時に振り返ると、そこにはどこか、決意したような目をした二宮がいた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます