第38話 先輩の秘密


「へえ、そう、そうなの…」

「は、はい…あの…」


 生徒会室には四方堂先輩と、他に何人かの役員の人もいたけど、先輩は場所を移して私の話を聞いてくれた。

 うん、それはありがたかったんだけど…


「あら、ごめんなさい?三条さんにムカついてるわけじゃないのよ?」

「それは分かってますけど…」


 にこやかに笑ってるけど、口元がヒクヒクしてるし、めちゃくちゃキレてますよね…?


「ふふ…あの男、消しちゃう?」

「え?え!?」

「冗談よ、冗談」


 …座った目で言われると…引きますよ?


「でも、その神楽坂くん、私とそうちゃんとのことは、何も知らないんでしょうね」

「どういう意味ですか?」

「もし知っててやったのなら、相当バカよ」


 先輩の家は四方堂グループとして有名な名家で、神楽坂家はその傘下に入る末端の家系らしい。私も先輩がお嬢様だってことは知ってたけど、まさかそれほどの御令嬢だとは思ってなかった


「私の祖父はそのグループの会長、父は取締役、神楽坂くんの父親は確かうちのグループ会社の、ただの役職持ちじゃなかったかしら?」

「へ、へぇ…そうなんですね…」

「元々この学園の設立者と祖父が懇意にしていて、それで理事のうちの一人になったのだけど、彼の父親は確か祖父の後押しで理事になったはずよ?」

「そうだったんですね…」

「ええ。そのおかげでこの学園に入学出来たはずなのに、それをあの男は、全く…」


「力になるから」と言われたのでその日のうちに来てみたんだけど、これは思ってた以上に大変なことになりそうだ…


「もちろん父も母も祖父も、そうちゃんのことは知ってるから」

「え!?」

「当たり前でしょ?お互いの家も行き来してたし、本当に姉弟みたいだったんだから」


 ここで一つ疑問に思うことが…


「一つだけお聞きしても…?」

「いいわよ」

「あの…どうしてそんな名家のお宅のお嬢様と、普通の家庭の颯馬くんがそこまで仲良く出来たんですか?」


 普通、そんなお嬢様がいくら近所だからって、一般家庭の子供と一緒に公園で遊んで、しかも一緒にお風呂に入ったりする?


「そうね。確かにそうちゃんの家は一般のご家庭よ。そう思うのは分かるわ」

「はい」

「これはうちの方針なの」

「方針?」


 幼い、子供の頃から周りの大人に、お嬢様として扱われて大きくなってもろくな事にならない。普通の目線で、その人達の中で育って、そしてそのままその生活を送る方が、後々役立つ事も多い、との考えらしい。


 子供の頃から「可愛いね」と、周りからチヤホヤされて大きくなった私にはかなり耳が痛い話だったけど、実際、先輩が子供の頃に住んでいた家は普通の民家だったそう。

 もちろん、ある程度の英才教育を受けてはいたけど、先輩も中学を卒業するくらいまで、自分がそこまでの家の生まれだとは、詳しくは知らなかったらしい


「まあ、本当にそれがいいかどうかは、私には分からないけどね」

「はぁ…」

「でも、そのおかげで私はあの子と出会えたんだから、感謝してるわ」


 外の景色を眺めながら、優しい表情で話す先輩からは、颯馬くんへの愛情がひしひひと伝わってくる


「でも、このことはあの子には秘密よ?」

「どうしてです?彼、知らないんですか?」

「ええ、教えていないもの。もしこのことを知れば、せっかくまたここで会えたのに、せっかくもう一度姉弟のようにいられると思ってたのに、そうじゃなくなるかもしれないもの。だから言わないで、お願い」



 先輩の秘密を教えてもらえたようで、私は少し嬉しくなるのと同時に、彼が、颯馬くんは一人ぼっちなんかじゃなかったんだ、って思い、また別の嬉しさがこみ上げてきた


「分かりました」

「助かるわ」

「でも、それを内緒にしたままで、どうにか出来るんですか?」

「彼が理事の息子っていうのを出して来なければ、私個人でどうにか出来たかもしれないけど、仕方ないわね」

「それじゃあ…」

「あ、大丈夫。どうにでもなるわよ?」

「え?」

「ふふ…明日になれば分かるわ」



 不敵に笑う四方堂先輩は頼もしく、これは私でもお姉さんと呼んでしまいそう


 いや、姐さん…かな…




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