第37話 許せない…


 苦々しい表情で二人を見つめる神楽坂くん


 でも、私に気付くとパッといつもの笑顔になり、こちらに歩いて来る


「三条さん、どこ行ってたの?」

「ちょ、ちょっとね…」

「まさか如月くんと一緒にお昼過ごしてたのかと思ったけど、違ったみたいだね」


 私達が別々に帰って来たからそう思ったんだろうけど、今はそう受け取ってもらう方がいい気がする


「そうね」

「じゃあ、入ろうか」


 そう言って、自然と私の肩に手を伸ばしてきたので、私は反射的にその手を払ってしまった。すると、


「ごめんごめん、いや、僕達の仲をちゃんと理解してもらおうと思っただけなんだけど、彼にね」


 その視線は颯馬くんの方に向けられているけど、私との仲って何?ただのクラスメイトでしょ。それ以上でも以下でもないよね?


「しかしなんだね、二宮くんほどの女子が、いったい何の用事で度々やって来るのか」


 そんなの颯馬くん目当てに決まってるでしょう。あなたには分からないでしょうけど


「如月くん?あまり下級生に付き纏ってはいけないよ?」

「え?いや、俺はそんなつもりは…」

「そ、そうです、先輩はそんな人じゃありません!」

「二宮くん?いいんだよ、無理しなくて」

「だから違いますって!」

「僕の父はこの学園の理事の一人でね。困ったことがあればいつでも力になれるよ」

「う…」

「如月くんも、分かったかい?」

「ああ…分かったよ」


 変わらずの笑顔だけど、酷く気持ち悪いものに私には見えた。

 これは暗に颯馬くんに「お前は女の子にちょっかい出さず、大人しくしてろ」ってことよね?


 え?何?この人、こんなに性格悪いの?

 どうしてこれで女子にモテるわけ?

 私には絶対無理なんだけど?




 すぐに午後からの授業開始5分前の予鈴が鳴り、二宮は悲しそうな表情で帰って行く。

 私も教室に入るけど、隣にはピッタリと神楽坂くんが寄り添うように歩いている


 本当に気持ち悪い。

 そして何故か机の所まで一緒に着いて来て、隣の颯馬くんの机に腰を下ろした


「ちょ、ちょっと?神楽坂くん…?」

「何かな?」

「もう授業始まるし、それにそういうのはどうかと思うんだけど…」

「この際だから、提案なんだけど」


 この男はサラっと、殆ど金髪に近いような色に染められた髪をかきあげる


 どうでもいいけど、私の話を聞きなさい。

 もう面倒だからいいけど


「何かしら」

「いい加減クラスメイトのみんなも、ずっと同じ席じゃ嫌だと思ってね」


 まだこのクラスになって2ヶ月経ったか経ってないかくらいなのに、こいつ…


「だから?」

「今日の放課後、席替えをしないかい?」

「そ、そんなこと、勝手に…」

「大丈夫だよ。もう先生の許可は得てる」

「え…」

「と、いうわけだから。君もいいね?如月くん?」

「…分かったよ」

「それじゃあ、僕はこれで」



 周りを見渡すと、いつも神楽坂くんの周りにいた女子達はキャーキャーと楽しそうだけど、それ以外の、主に男子達は面白くなさそうに、でもそれを隠してそっぽを向いている




 そして放課後


 颯馬くんは教卓のすぐ前の、一番前の席になり、神楽坂くんは窓際の後ろから2番目。その前後をいつも彼と一緒にいる女子で挟んで、私はその彼の隣の席となった


「あははは。これで毎日席を移動しなくても一緒にお昼食べられるね」

「本当にラッキーだったね」

「うんうん。こんなことってあるんだね」


(ないわよ。あるわけないでしょ)


 こんなの、ズルしたに決まってる。

 上機嫌の神楽坂くんとこの女子二人に、私はイラついてしまう。彼の笑った顔が本当に嫌いだと思った



 …この男は、ここまで姑息なの?

 というか、程度が低すぎない?


(こんなの…許せない…でも、私じゃあ…)



 ふと視線を前に向けると、颯馬くんは何事もなかったように、普段通りに教室から出て行こうとしていたけど、一瞬だけこちらを見て、苦笑いしていた


「それじゃあ、私はこれで」

「三条さん、もう帰るの?」

「せっかくなんだから少し話そうよ」

「ごめんなさい。今日は帰るわ」




 私はそのまま颯馬くんの後は追わず、向かった先は四方堂先輩のいる、生徒会室だった




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