第36話 そりゃ固まるわよ


「…待って」


 そう言って私の手を握ると、彼は優しく微笑みかける


「あ、あの…その、そ、颯馬くん?!」


 もう告白する勢いだったのにそれを止められ、私はわけが分からなくなった


「四方堂先輩…ううん、みず姉ちゃん、あのね、俺、伊織さんといて楽しいんだ」

「そうちゃん…」

「教室で一人いる俺にいつも話しかけてくれて、困ったことがあったら助けてくれて、遊びに行くのも誘ってくれて…、そんなこと、俺、初めてで…」

「それで…?」

「だからね、彼女は…凄く…」

「凄く?」

「大事な人なんだ…」


 はぅ…だ、大事な人…大事な人!?


「そうちゃん…それは、そういうこと?」

「え…?」

「…好きだってこと?」

「うん…好きだよ…」



 え…好き…?って、好き?



 ふ…ふふふ…やった、やったのね…私、これで私達…両想いカップルってことよね…



「…大好きな友達だよ」

「「え?」」


 私と先輩はほぼ同時に言った。

 うん。そうだよね、そうなるよね!


「ちょ、ちょちょ、え?え!?」


 意味深に手繋いできて、優しく微笑んで、それでそのセリフ?


「そ、そうちゃん?それは…」

「え?なに?」

「なに?じゃなくてね、あの、ほら、三条さん、ビックリし過ぎて固まったわよ?」

「え…そうなの!?どうして…?」


 いや、そりゃ固まるわよ。

 てっきりその流れだと思うわよ。

 なんだか、持ち上げられて一気に下まで落とされたような感じ…



 先輩は颯馬くんの耳元で何か言ってるみたいだけど、私には聞こえないし、今はもうどうでもよく思えた


「は…はは…」


 もはや、乾いた笑いしか出て来ない私



「あの…先に戻るね?」

「え?」

「その…四方堂先輩が、話があるって…」


 先輩が私に話?何の話?



 颯馬くんは何故か顔を真っ赤にして、この場から逃げるように出て行ってしまう


 そして、生徒会室に残された私達二人


「三条さん…」

「はい…」

「ごめんなさいね」

「え…何がですか…?」

「少し、あなたを試すようなことをしてしまったわ。ごめんなさい」


 あ、やっぱりそうなんだ


「いえ…」

「あなたを見てて、あの子のことを真剣に想ってくれてるっていうのは分かったわ」

「そ、そんな、私は…」

「もし遊び半分なら、煮るなり焼くなり好きにしてやろうって思ってたけど、安心した」


 …え?…私も色々と安心しました…



「あと、あの子が鈍感でごめんなさいね」


 先輩は「やれやれ」と、少し呆れ気味にそう言うけど、本当にその通りだと思う。鈍いにも程があるよ


「だから、ちゃんと言い聞かせておいたよ」

「え?何をです?」

「さあ、それは内緒」


 人差し指を立て、「ふふ♪」と悪戯っぽく笑ってるけど、何を言ったっていうの?どうしてあんなに顔真っ赤にしてたの?


「でもね…」

「はい?」

「でも、あの子は色々あったから、どうしても人との間に線を引いてしまいがちなの。それだけは分かってあげてくれる?お願い」


 ご両親のこともそうだけど、たぶん転校してからずっと、大人しくてクラスにも馴染めないでいた彼にとっては、誰とも関わらないことで、そうやって無意識のうちに、自分の身を守ってきたのかもしれない


「そうですね。分かってます」

「そう。それなら良かったわ」

「はい」



 それから私は部屋を出て、教室に向かう。

 先輩は「何かあれば言ってね。力になるから」と言ってくれた。四方堂先輩にそう言って貰えたのは、私にとってかなり大きい


 それにしても、先輩が彼に耳打ちしてた内容が気になる。いったい何を言ったの?


 気になるし、あとで颯馬くんにこっそり聞いてみようかな、なんて思いながらも、私は時間に間に合うよう、早足で歩いて行く。


 そんな私が教室の手前の所で見たのは、颯馬くんともじもじしながら話している二宮と、その向こうからその様子を苦々しい表情で見つめる、神楽坂くんの姿だった




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