第35話 固まった


 四時限目の授業が終わりお昼休みに。

 すぐ席を立とうとした颯馬くんに、私は小声で話しかけた


「今日も、あそこ行くの?」

「いや、今日は違うとこに」

「え?どこ?」


 意外。あと他に何処に行くっていうの?


「生徒会室。四方堂先輩に呼ばれて」

「なんで?」

「あの…結局…お弁当を…」

「は?」

「断り切れなかったんだよ…」


 へえ、そう、そうなの


「分かった。私も行く」

「え?」

「私も行く。いいよね?」

「うん、分かったよ」



 これは先輩が颯馬くんのことを、いったいどう思っているのか、それを知るいい機会かもしれない


 それに、私の想いを知ってもらうチャンスでもあると思った。

 …正直なところ、告白する勇気がなかなか出なくて、何かいいきっかけがあれば言えるかも…なんて考えてたの


 私はお弁当を持ち、彼の後ろに続こうとしたのに、


「三条さん?どこ行くの?」

「あ…神楽坂くん…」

「ほら、みんなでお昼食べようよ」

「あ、あの…」

「ん?まさか、三条さんが如月くんと一緒にお昼食べるわけないよね?」


 笑顔でそうは言ってるけど、目は笑ってなくて、凄い圧を感じる


「えっと…それは…」

「ほらほら、みんな待ってるじゃん」


 神楽坂くんの後ろには、すでに何人かの子達がいて、どうしよう…これじゃあ颯馬くんと一緒に行けなくなっちゃう…


「三条さん、別の場所で食べるの?」

「た、高岡さん…」

「いいよいいよ、行って来なよ」


「何言ってるの?」と間に入って来た神楽坂くんを「いいじゃん、たまには」と笑顔でいなす高岡さん


(ありがとう…)


 私が急いで颯馬くんの後を追うと、少し先の階段の所で待ってくれていた


「あの…大丈夫そう?」

「うん。高岡さんがうまく誤魔化してくれたから、たぶんね」



 それから4階奥の生徒会室に向かい、扉の前まで来て彼がノックすると「どうぞ」と四方堂先輩の声が聞こえた


 ガラガラ、と扉をスライドさせると、中には先輩一人だけが、長机の向こうに座っているのが見えた


「あら?三条さん?どうしたの?」

「えっと…すみません…。如月くんについて一緒に来ました…」

「如月くん?そうなの?」

「はい…」

「ふう…まあいいわ」


 そう言って、先輩はピンクとブルーの、それぞれの袋に入ったお弁当を出し、


「はい。お弁当よ」

「ありがとう…ございます…」

「いいのよ。あと、こういう時くらい、昔みたいに接してくれないかしら?」


 優しい表情でそう言う先輩だけど、少し悲しそうにも見えた。そして、私の方に向き直ると、その目には何か闘志というか、怒りというか、あまりよくない感情が入ってることだけは伝わってきた。

 それでもその後は颯馬くんだけを見て、ニコニコと楽しそうにしている


「はい、そうちゃん、召し上がれ」

「ちょ、ちょっと…その呼び方は…」

「ごめんね、つい」

「いただきます…」

「ふふふ」


 なに?何を見させられてるの?


 先輩は彼の正面に座ってるんだけど、机の幅が狭いからか、やたらと距離が近くに見えてならない。

 それに、「ほら、卵焼き、美味しくできたんだよ」と、今にもあ~んしそうな雰囲気


 こんなの、パッと見たらただのラブラブカップルじゃないの!!


「あ、あの…如月くん…隣、いい?」

「うん…」

「三条さん、ごめんね、気が付かなくて」


 フッ、っと笑う先輩が、私にはやけに大人に見える


「いえいえ、大丈夫です」


 これは…試されてる?


「あの…先輩は如月くんとはどういう…」

「昔近くに住んでたことがあってね、仲もよくて姉弟みたいだったのよ」


 その話は颯馬くんもそう言ってたな


「そうなんですね」

「ええ。一緒にお風呂も入ったし」

「なっ!?」

「ちょ、ちょっと!何言ってるんだよ!」

「あら、いいじゃない」

「よくないってば!」


 このテンションの颯馬くんを見るのは初めてだけど、そりゃそうなるよね。

 ていうか、マウント取ろうとしてるわけ?


「私も、この前一緒に出かけて、手繋ぎましたけど?」

「は?」

「ちょ、ちょっと?伊織さん?!」


 颯馬くんたら、咄嗟だったから名前で呼んでくれたのね。ちょっと嬉しい…


「伊織さん?なに?そうちゃん?どうして名前で呼んでるの?」

「だからその呼び方は恥ずかしいって!」

「じゃあ、そうくん?」

「それもちょっと…まだマシだけど…」

「詳しく話しなさい」

「え…」

「お姉ちゃんに話しなさい」

「はい…」


 先輩の圧に負けたのか、颯馬くんは話し始める。

 この前の連休中のことや、そのあとも一緒に出かけていることも話していて、


「そう…そうなのね…」


 力無くそう言った先輩は、さっきまでの剣幕はなりを潜め、小さくなったように見えた


「三条さん…」

「はい…」

「あなたはどう思ってるの?」

「え…?」

「彼のこと、如月くんをどう思ってるの?」



 もう…今、このタイミングしかないよね…




 私が意を決して口を開こうとしたその時、


「…待って」

「え?」




 隣にいる彼に手を握られ、私は固まった





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る