第32話 半分嘘で半分は本当


 出てきたシールを切り分け、半分こにする


(えへへ…やった…)


「あ、ありがとう…」

「うん」

「じゃあ、行こうか」

「そうだね」


 そのままゲームセンターを出ようとしたけど、メダルコーナーで遊んでいる、ちょっとガラの悪そうな、たぶん同じくらいの年の男子が何人かいて、こっちを見ているのに気付いた。

 その中の一人が颯馬くんの所にやって来て


「あれ?やっぱり如月だよな」

「うん…」

「こんな所にいるなんて珍しいな。しかもこんな可愛い子連れてさ」

「………」

「あっちから来たってことは、まさか彼女?嘘だろ?」

「違うけど…」

「だよな!!」


 たぶん彼の中学の頃の知り合いか何かなんだと思うけど、感じ悪い。


「ねえ、こいつといてもつまんないでしょ。俺達と一緒に遊ぼうよ」

「結構です…」

「ええ、いいじゃん」


 向こうから残りの男の子達もやって来て、囲まれそうになる。私は颯馬くんの後ろに隠れ、彼の服の袖を掴むくらいで、怖くてどうしたらいいか分からなくなった


「怖がってるから、やめようよ…」

「如月?この子とお前なんか釣り合ってねーんだよ。だから俺達が代わりに遊んであげるって言ってんだ。お前は家で大人しく本でも読んでろよ」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、颯馬くんにそう言っている。

 彼は俯いて暫く何も言わなかったけど、


「…行こう」

「え…」

「伊織さん…行こう…」


 そのまま私の手を取ると、軽く引き寄せ、早足で歩いて行く


「おい!待てって!」


 私達を追いかけようと、手を伸ばされそうになったその時、


「君達何やってんの?」

「やべ…行くぞ!」

「ちっ…」

「ちょっと?何処の学校の子?」

「早く行くぞ!」


 店員さんが来てくれて、彼らは逃げるようにお店から出て行った


「大丈夫だった?」

「はい、すみません…」

「君が謝らなくてもいいのに。彼女さんも大丈夫?」

「は、はい!」


 颯馬くんはちょっと赤くなってるけど、店員さんに頭を下げ、お礼を言っていた


「じゃ、気を付けてね」

「ありがとうございました」



 私も気が動転してて、今の状況がよく分かってないようなまま、早足で駅の方に向かって歩いていた。

 怖かったっていうのはもちろんあるけど、それと店員さんに「彼女さん」と言われたことが頭から離れない


「伊織さん、大丈夫?」

「え!?う、うん!もう大丈夫!!」

「ごめんね、あんなことになって…」

「ううん、颯馬くんが悪いんじゃないから」


 彼らはやっぱり颯馬くんの中学の頃の同級生で、当時からちょっとやんちゃな感じだったそう。ほとんど接点もなかったらしいけど、それなら絡んで来ないで欲しいよね



 というか…


 …落ち着いてきたから気付いたけど、颯馬くんはずっと私の手を握ってくれてたみたい


(ちょっと大きい…あったかい…)


 そんなふうに思って、私はついキュッと力を込めてしまった


「あ!!ご、ごめん!」


 彼もたぶん気付いてなかったんだろうけど、今ので気付いちゃったみたいで、慌てて手を離されてしまう


「ぁ…」


 せっかく手繋いでくれたのに、あったかくて嬉しかったのに…


「本当、ごめん…さっきはどうにかして出なきゃ、って思って咄嗟に…」

「う、うん…いいよ…」

「うん…」

「あ、あのね…」


(もっと繋いでいたい…)


 私は彼の手を取り、キュッと握る


「え…」

「あの…さっきのでまだドキドキしてて、もう少しだけ…いいかな…」


 嘘。ううん、半分嘘で半分は本当


「あ…うん、怖かったよね…。伊織さんが嫌じゃないなら…」

「…うん、嫌じゃないよ…」


 颯馬くんは、たぶん私を安心させようとしてくれてるのか、少しだけ手に力を込めて握ってくれた


 彼の温もりと一緒に、颯馬くんの優しさも直接私に伝わるようで。

 さっき、颯馬くんは自分も怖かっただろうに、それでもちゃんと私のこと守ってくれようとしてた


 こんなの…もう…

 …もう!!惚れ直しちゃうってば!




 たぶん男の子と手を繋ぐのなんて、小学校の時以来だと思う。

 あの頃、どういうふうに感じてたなんてもちろん覚えてないけど、今こうして繋いでいると、もう彼のことが好きで好きで、どうしようもなくなってしまう



「あの…颯馬くん…」

「…どうしたの?」

「あ、あの…あのね?…店員さんに、彼女さん、って言われちゃったね…」

「…そうだね…」



 そこからはお互い何も話さず、私は話せなくて、黙って歩いて行く。

 彼は真っ赤になって、耳まで赤くして俯いて、でも…それでも、手は繋いだまま離さないでいてくれる


 私はただ幸せで、ますます颯馬くんのことが好きになり、このままずっと一緒にいたいと思うばかりだった




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