第31話 ミッション


 5月5日。一日開けて二度目のデート


 この前と同じように颯馬くんと待ち合わせして、少し街を歩いていた。

 今日はこどもの日なので、兜の絵が書かれたのぼりなんかも立てられていて、和菓子屋さんの前には行列ができていた。

 それを見た彼は、


「柏餅買う?」

「え?本気?」

「ごめん…」

「あ…私の方こそ、ごめんなさい…」


 いや、あの…たぶん私がお店の方見てたから、私が欲しがってるんじゃないかって思って、そう言ってくれたんだろうけど、つい普通に素っ気なく返しちゃった…


 あ、ほら、ちょっとしょんぼりしちゃってるじゃない


 可愛い…


 いや、そうじゃなくて、どうすれば…


「あの…颯馬くんは食べたい?」

「え…いや、別に」


 くっ…

 …もう私の手札はなくなったわよ?


「子供の頃、柏餅たくさん買ってきてくれてね、一人で食べ切れないくらい。次の日もずっと食べてたっけ」

「そうだったんだ」

「伊織さんは二人姉妹なんだよね?」

「うん、そうだけど…」

「姉妹で喧嘩とかする?」

「ああ、しょっちゅうかな」

「あはは、そうなんだ」

「どうして笑うのよ」

「ごめん、楽しそうだな、って思って」


 昨日も沙織にからかわれた感がある。

 でも一人っ子の彼からすれば、しかも今はお父さんと二人だし、羨ましく思うのかもしれない


「ねえ」

「うん」

「颯馬くんがよければ、いつでもLineして」

「う、うん…」

「本当に、私に気を使ったりしなくていいから、一人で暇な時とか、ちょっと手が空いた時とか、うん、いつでもいいから」

「ありがとう」



 一昨日、今日のことも、何処に行こうかとか、何をしようとか、そういうのも話していたんだけど、結局二人でのんびり街を散策することにした


 もちろん沙織には「は?それでいいの?」と呆れられたけど、うん、それでいいの。

 無理矢理決めて何処かに行っても、お互いに楽しめるかどうか分からないし、むしろ疲れるだけかもしれない。

 それよりも、彼と他愛ない話をしながら、色々と見て回る方が私は楽しいと思った


 実際に、今、私は楽しくて仕方がない


 彼の顔を見ながら、隣に並んで歩いて、気になったお店があればちょっと覗いて。二人でああでもないこうでもないと話しては、ちょっと飲み物を買って休憩。そしてまた歩いて行く


 そんなことしかしてなくても、私にとってはこの時間が幸せで、いつまでもこうしていられればと思うほど



 けど、更に欲が出てきた


 それは、


「ん?どうかした?」

「へ!?ううん、なんでもないよ!」

「そ、そう?」


 …うん、それは…この隣でぷらぷらと揺れてる手がね…うん、手が…気になる…


 いや、気になるというか、手…繋ぎたい…



 …でも、さすがにこれはハードルが高い。

 ちょっと仲良くなれたくらいで、もちろんまだ付き合ってもないのに、それなのに手繋ぐ?普通は繋がないよね?


 それくらいは私でも分かってる。

 でも、繋いでみたい…


 もう、一度気になり始めると気になって仕方がない。何度もチラチラと颯馬くんの手を見てしまい、繋いでる絵を想像しては、一人で照れて顔が熱くなる


 …まあ、これはちょっと無理だ。

 うん、諦めよう



 でも、今日、私はあるミッションを自分に課していた。それは…


「あ、颯馬くん、見て」

「どうしたの?」

「あのぬいぐるみ、可愛いよ」

「どれ?」


 それはUFOキャッチャーの景品のぬいぐるみ。もちろんそれが目的じゃなくて、お目当てはゲームセンターの中にあるプリクラ


 ふふ…


 そう、颯馬くんと一緒にプリ撮りたい!

 撮って二人で分けっこして、何かに貼ってお揃いしたい!


 ぬいぐるみはあくまで彼をゲームセンターに連れて来るための口実で、入ってしまえばこっちのものよ…ふふふ…


「ねえ、可愛いよね」

「そうだね」

「あ、他にもあるね。入ってみようよ」

「うん、いいよ」


 ここまでは順調。このまま奥へ…


 …と思っていたら、何か見覚えのあるロボットが景品になってる機械の前で、颯馬くんは真剣な表情でそれを見つめている


(どこかで見たよね…ん?)


「…それって、颯馬くんのアイコンの…?」

「うん。これ、ガトー専用ザ〇IIなんだ」

「え?」

「ほら、普通は緑色だけど青いでしょ?」

「え?」

「ご、ごめん…女の子は興味ないよね…」

「いや、あの…ごめんね、私、あまり詳しくなくて…」


 どうやらお父さんの影響でそのアニメ…というかプラモデルが好きだそうで、いろんなシリーズのロボットを作っているそう


(颯馬くんも男の子だし、やっぱりそういうの好きなのね)


 その後「ごめんね…引いたよね…」と悲しそうにしてたけど、私は全然引いてないし、むしろ彼の知らない一面が見られて、私にとっては嬉しいことだった


「だから気にしないで」

「うん、ありがとう」

「ふふ。どういたしまして」



 あ、本来の目的を…


「あ!あっちにプリクラのコーナーあるよ。せっかくだから一緒に撮ろうよ」


 さり気なく自然に言えたと思ったけど、彼は明らかに動揺していた。

 男子立ち入り禁止とか書いてたら、そりゃそうなるよね


「私もいるから大丈夫だよ」

「うん…。でも、いいの…?」

「ほら、行こ?」

「分かった」


 この時一瞬、颯馬くんを連れて来るのに手を繋ごうかどうしようか迷ったけど、迷っただけで結局それは出来なかった


 ん~…ちょっと服引っ張るくらいならやってもよかったかな…

 あ…でも、それはそれで顔がニヤけそう…



 ボックスの中に入ると、思ってたよりも狭くて、時折り体が当たってしまう


「ごめん…」

「ううん、気にしないで…」

「うん…。あの、本当にやり方とか知らなくて、どうしたら…」

「私がやるから、颯馬くんは私の真似してくれたらそれで大丈夫だよ」


 いくつかポーズを取って撮影したけど、楽しい、これはまたやりたい。

 でも、隣の颯馬くんはかなり体力を消耗した様子。ちょっと辛かったかなぁ





……………………………………………


1話が長くなりそうなので、2回目のデートは前後編に分けることにしました┏○ペコッ




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る