第33話 友達として


 ゴールデンウィークも終わり、それから暫くは平穏な日々が続いた。


 けど、


「如月く~ん♪」

「な、なに?…一之瀬さん…」


 一学期の中間も近付いてきたことだし、確か、連休明けから一緒に勉強するとかいう話だったっけ?


「ね、お願い。また一緒にやろうよ」

「そ、そうだね…」


 一之瀬さんは相変わらずのテンションで颯馬くんに絡んでるけど、でも彼は…前はもっと普通に接してたように思うのに、今はちょっと引き気味というか、遠慮がちというか。


「ね?」

「ちょ…っ!」


 こらっ!!当たってる!


 え?何が当たってるか?

 そんなの言えるわけないじゃない!!


「い、一之瀬さん…?」

「あ、三条さん、いたんだ」


「三条さん、いたんだ」ですって?

 ずっと隣にいたわよ!!


 ふふ…いい度胸じゃないの…


「ふふ…ごめんね、隣にいたんだけど」

「うんうん、それで?」


 いつものニコニコ笑顔のままなのに、この子からこんなにも圧を感じたことは、未だかつてない。


「ちょっと近いというか、如月くんも困ってるっていうか…」

「え?如月くん…怒っちゃった?」

「いや、怒ってはいないんだけど、確かに距離が近いとは思うよ、うん…」

「しゅん…」


 こらっ!口に出して「しゅん…」とか言わないの!あざといってば!

 ほら!周りの人がみんな見てるじゃないの、もう!!


「なんで違うクラスの一之瀬さんがわざわざここまで来て、しかもあんなに…」

「如月ずるくね?」

「柔らかいんだろうな…」

「遠い目するなよ!」

「…なあ、如月って何者なんだよ…」

「またあの二人に囲まれて…納得できん…」


 ほら…この刺すような視線を感じないの?

 颯馬くん困ってるよ…



 さっき自分でも言ったように、しゅん…としたままの一之瀬さんは、


「だって…」

「だって?」

「好きなんだもん…」

「はい!?」


「「「「「え゛えーー」」」」」



 あ…もうこれ…収集つかないわよ…?


「ちょっとこっち来て!!」



 私は二人の腕を掴んで、騒然とする教室を文字通り逃げ出したのだった





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「一之瀬さん、あのね…」

「うん…」

「さっきのうちのクラスの状況、見た?」

「どういう意味?」

「凄いことになってなかった?特に男子はヤバいことになってわよ?」

「どうして…?」

「はぁ…あのね…」



 一之瀬さんは私達と同じように、学園で有名な美少女であること。自分がどう思っていようと、私達はそういう目で見られているということ。あと、スキンシップが多いということ。特に颯馬くんとの距離が近いということ。さっきは当たってたこと。

 などなど…私はこんこんと説明した。


「ごめんね、如月くん…嫌だったよね…」

「嫌じゃないよ!うん!いや、そうじゃなくて、えっと…あの…」


 そりゃ嫌なわけないよねー

 一之瀬さん、大っきいもんねー


「へー、如月くんは嫌じゃないんだ、へー」

「さ、三条さん…?」

「ははは、そうなんだー」

「あの…棒読み怖いんだけど…」


 私だって…私だってそんなに小さいってわけじゃないのに…!

 この子が大っき過ぎるのが悪いの!


「ごめんね、迷惑かけちゃったね…」

「一之瀬さん…」

「私ね、四天王とか呼ばれても、三条さんみたいに綺麗じゃないし、勉強も出来ないし、しかもドジだし…そんなのみんなが面白がって言ってるだけだって、本当にそんな自覚なんてなかったの…ごめんね」


 本当に自覚がなかったみたいで、颯馬くんにきちんと頭を下げて謝っているのを見ちゃうと、なんだか言い過ぎたな、って、申し訳ない気持ちになってくる。


「うん、大丈夫だよ」


 彼は優しく微笑んでそう言うと、


「俺もね、一之瀬さんのこと、好きだよ」

「え…」

「だから、一之瀬さんも同じだと嬉しい…んだけど…」


 そう言われて、彼女は少し考えてるような素振りを見せたあと、


「うん…うん!私も!!」

「ありがとう」

「ねえ、じゃあ、今度からは三条さんも一緒にやろうよ。ね?お願~い」

「う…うん、いいわよ」

「やった~♪」



 その後教室に戻り、事の経緯をみんなに説明して、なんとか納得してもらえた。

 一之瀬さんも一緒に「ごめんね♪」と普段通りの感じでうちのクラスメイト達に言ってくれたから、誤解が解けるのは早かったのかもしれない。


 彼女は自分の教室へと帰って行き、颯馬くんもホッとした感じだった。


「とりあえずこれで大丈夫かな」

「うん。三条さん、ありがとう」

「ええ…」


 私はあの時、彼が「友達として」と言った時、一之瀬さんが一瞬だけ悲しそうな表情をしたのを見逃さなかった。


 やっぱり、あなたもそうだったんだね。

 でも、あの感じだと、その自分の想いにはちゃんと気付いてなかったよね?



「三条さん?どうかした?」

「ううん…なんでもないよ…」



 ごめんね…ずるいかもしれないけど…

 私、頑張るから…




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