第28話 これは無理


 5月3日。記念すべき人生初デートの日


 最寄り駅で待ち合わせしてたけど、私の方が先に着いたようで、彼はまだ来ていないけど、まあ、約束の30分も前だし仕方ない


 私はカーキ色のミモレ丈スカートに、黒のブーツ、トップスは白いTシャツに上にデニムシャツを羽織っている。

 今ある服の中では、割と気合いの入った部類に入るんだけど、颯馬くんはどんな格好で来るんだろう


(…というか、私服見るの初めてだ…)


 そう思うとそれだけでドキドキしてくる私




 それから10分くらいして、彼はやって来た


「ごめんね、待った…?」

「はぁ…」

「え?」

「ううん、大丈夫…私も今来たから…」


 なにこれ…このやり取りだけで満足しちゃいそうなんだけど



 颯馬くんは黒のスキニーパンツに無地の五分丈の白T、スニーカーといった装い


 シンプルで間違いのない無難なチョイス。

 だけど、元々線が細いとは思ってたけど、スラッとして足が長く、しかも髪もいつもとは違って少し跳ねさせてて、私の色眼鏡なのは分かってるけど、とにかくカッコいい


 私はついついうっとりしそうになる


「はぁ…」

「三条さん?」

「へ?」

「どうかした?」

「いや、あの…べ、別に…」


 ん?そういえば、二人の時は名前で呼び合うんじゃなかった?

 せっかくオシャレしてきたし、私、楽しみにしてたのに…


「む~…」

「あ、あの…三条さん…」

「い・お・り!」

「は、はい…伊織さん…」

「ん…」


 少し拗ねていると、思い出した。

 そうだ…連休始まりの2日間は一之瀬さんと一緒だったんだよね


(どうだったんだろう…)


 そう思うと気になって仕方がない


「そういえば、勉強会はどうだったの?」

「え?ああ、半日くらいやってたよ」

「あの…勉強だけ…だよね?」


 デートっぽいことなんて、あの子としてないよね?ね?


「うん。それだけ」

「そっか…」


 ホッとして胸を撫でおろす。そして特に何も考えないで「昨日はどうしてたの?」と聞いてみたら、


「昨日は…二宮さんと…」

「え?」


 え?二宮と…なに?


「映画見に行って…」


 なんですって…?

 二宮と映画?それってデートでしょ?

 浮気?…いや、まだ付き合ってないから浮気じゃないか


「そうなんだ…」


 でも、私より先にあの子とだなんて…


 なんか私、馬鹿みたい。

 オシャレして気合い入れてたのって、本当になんだったんだろう。

 そう思うと、浮かれてたのが嘘みたいに、一気に落ち込んでしまった


「あの…ごめん…」

「…どうして謝るの?」

「二宮さんに一日だけでいいから、って言われて、それで俺…あの子大人しくて…」


 イライラしてしまった私は、ついキツい口調になってしまう


「だから何?」

「…妹がいたらこんな感じなのかなって…」

「え?妹?」

「うん。俺一人っ子だし、うちでも父親と二人だから、兄弟がいるとこんな感じなのかなって思って、それで…」


 …そうだった。確かに颯馬くんはお父さんと二人暮らしだから、そういう面では寂しく思うところもあるだろう


「…でも、やっぱりこういうのはよくなかったね。ごめん…」

「そんな…そういうことなら私は…」


 うん。そういう理由があったのなら、確かに嫌なのは嫌だけど、少しは理解したつもりだったのに、


「でも、二宮さんは女の子だし、一之瀬さんも、その…有名だし…」

「有名?」

「あ…三条さん…いや、伊織さんも有名だけど…」


 今言ってるその有名というのは、四天王のことを指してるんだよね?


「う、うん…周りが勝手にそう言ってるだけで、そういうのは恥ずかしいんだけど…」


 嘘だ。私はノリノリで、チヤホヤされて大満足だったじゃない


「だからね、そんな人達と俺が一緒にいてもいいのかな、って…」


 な、なるほど…言いたいことは分かる


 連日違う女の子と、しかも学園で超が付くほど有名な美少女と共に過ごし、モブの自分には不釣り合いなんじゃないか、と


 でも私は彼のことを、確かに最初はパッとしない男子だなって思ってたけど、でも今はそうじゃなくて、だからこうして一緒にいるっていうのに…


「颯馬くん…あのね?」

「うん…」

「私はそんなふうには思ってないよ」

「え…」

「もしそうなら、わざわざ遊びに行こうなんて誘わないよ。それに、釣り合う釣り合わないとか、そんなの他の人がどう思おうと関係ないよ」


 つい思ってることをそのまま言っちゃったけど、これは大丈夫なの?

 え…ちょ…、告白っぽくなってない?


「伊織…さん…」


 彼は頬を少し朱に染め、俯いてしまった


 これは、このまま言っちゃうべき?

 それとも…


「それとも、私じゃ駄目…?」


 なっ…何言ってるのよ、私!!


「そ、そんなわけないよ!!」


 お、おぉう…

 これは…お互いにどうすれば…



「で、でもね…」

「うん?」


 颯馬くんは顔真っ赤にして、恥ずかしそうに、言いにくそうにしてるけど、なんとか続きを言おうとしてくれている


「…伊織さんが、その…」

「その…何…?」

「あまり詳しくないし、なんて言ったらいいか分からないんだけど…」

「うん…」

「…その…似合ってて…」

「え…?」


 その「似合ってて」っていうのは、私の服のこと?もしかして、褒めてくれようとしてるの?


「えっと…」

「うん…」

「普段の制服と違うし、雰囲気も違って…」

「うん…」

「凄く…」

「凄く…何…?」

「綺麗…です…」

「ぁ…」




 顔が熱い…


 胸の鼓動も自分でも驚くくらいに早くて、ドキドキするのが止まらない


「ご、ごめん!変なこと言って…」

「う、うん…」

「でも嘘じゃなくて、似合ってて凄いな、って思うのは本当で、えっと、ちょ…ごめん、なんかおかしいな…はは…」



 目の前の颯馬くんは、動揺して焦ってて、自分でも何言ってるのか分からなくなってる


 でも、それは…少しくらいは私のこと…

 私のこと…意識してくれてるんだよね…?





 ……無理。もう、これは無理…





「好き…」




(まさか、こんなことになるなんて…)



 最初はただ、私に全く興味なんてなさそうだったから、悔しくてただデレさせようとしてただけなのに、いつの間にか私の方がデレていたなんて…




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