第27話 胸の痛み(四方堂視点)


 私には気になる男の子がいる


 この気になる、というのは、いわゆる恋愛感情の好きとかそういうのではなく、そのままの意味で気になる、ということ


 彼の名は如月颯馬。

 子供の頃に近所に住んでいた男の子で、よく公園で一緒に遊んだものだった


 私達はお互いに一人っ子で、彼は私のことを姉のように、私は彼を弟のように思って接し、小学校に入る頃にはまるで本当の姉弟のような間柄になっていた


 でも、あの子はいなくなってしまった


 私が小学校を卒業し、来年から中学生になる年の冬、そうちゃんは引っ越すことを伝えてくれた時、別れ際「またね」と、目に涙を溜め、それでも精一杯の笑顔を私に見せ、走って行ったのを覚えている


 後から分かったことだけど、彼の両親が離婚し、違う街にお父さんと一緒に引越して行ってしまったのだった



 中学生になり、真新しいセーラー服に身を包んでも、「どう?お姉ちゃん、中学生になったんだからね?」と、自慢することも出来なかった


 それでも時間は過ぎていき、私は高校生となった。そして、幼い頃の記憶は遠くなり、弟のように思っていたあの子のことも、薄情かもしれないけど、忘れる時もあった


 2年生に進級し、おじいちゃんが学園の理事のうちの一人ということもあって、私は生徒会の役員になった。

 その頃から、その役員の仕事の一環で、朝の登校時間、校門で生徒達に挨拶することに


 最初は緊張して、ただ「おはようございます」と言うのが精一杯だったけど、そんな中、私はあの日、あの子と再会する


 いつものように生徒に向け挨拶していた私は、彼を見てすぐにそうちゃんだと気付き、あの頃の、子供の頃に一緒に遊んだ情景が鮮明に甦る


「あの、如月颯馬くん…だよね?」

「はい。あ…もしかして…」

「うん、私、瑞希…みず姉ちゃん…」

「そうなんだ…また会えたね。あ…いや、また会えましたね」

「ふふ。言い直さなくてもいいのに」

「はい…あ、うん…」


 それからたまに話をするようになり、連絡先の交換もしてやり取りするようになった



 あの子は今、お父さんと二人で暮らしてるそうで、それを知った私は「ちゃんとごはん食べてる?」「何かあったら言ってね」と、気にかけるように


 進級して3年生になったある朝、珍しくあの子は女の子と一緒に登校して来た。

 その子はこの学園では有名な女の子で、三条伊織さん。この春からは私も含め、美少女四天王なんて呼ばれてたりするけど、確かに可愛らしい子だ


「あら、おはよう。今日は二人一緒なの?」

「四方堂先輩…おはようございます…」

「…おはようございます…」


 この前初めて一緒に来るところを見た時とは違い、二人とも少し照れくさそうで、なんだか初々しく思える


「この前は如月くんがたまたま早く来ただけだったのかしら」

「はい。あの日はたまたまです」

「今日は三条さんが合わせてあげたの?」

「ち、違います!」


 可愛い反応をする彼女に、少しだけ悪戯心が芽生える


「あら、如月くん…」

「え?」

「ほら、髪跳ねてるわよ?」

「なっ…!」

「あら、どうかした?」

「い、いえ、何も…」

「ふふ、ごめんなさいね。そんなに怒るとは思ってなかったから」

「怒ってなんかいませんよ!」

「ほら、早くしないと遅刻するわよ?」

「っ…!」


 ずっと一人で友達もあまりいなそうだったけど、一之瀬さんや三条さん、そうちゃんによくしてくれてるのね


 よかった…、と思うのと同時に、なんだか複雑な気持ちになる。


(本当に…仲良くしてくれてるのかしら…)


 あの二人は学園で有名な美少女の二人。

 そうちゃんは大人しくて陽キャなんかじゃないし、正直、イケメン…というわけでもないと思う。

 もちろん、今でも私にとっては可愛い弟で、困ったことがあるなら、私に出来ることはしてあげたい。

 そんなあの子に、もし、あの二人が揶揄うのが目的で近付いただけなら、そんなことは許さない。

 でも、そうじゃなくて、あの子に好意を寄せているとしたら…


 さっきの三条さん、たぶん…私にやきもち焼いてたよね。なら…彼女はあの子のこと…


 もしあの二人が付き合うようなことになれば、私は…?


 もうあの子の世話を焼いてあげられなくなるのかな…私は邪魔かな…



 そこまで考えたら、私は胸が痛くなった


 子供の頃を一緒に過ごし、姉弟だと思ってたあの子が、私以外の他の女と…



 …はあ、何考えてるのよ。

 彼女が出来て楽しい高校生活を送れるなら、それでいいじゃない。むしろ祝福してあげないとね



 その後、新入生の二宮さんもそうちゃんと一緒にいるところを見ることがあり、私はなんだかモヤモヤしてしまう。

 そして、その度に起こるこの胸の痛みは何なんだろう…



 とにかく、辛い目に遭ったあの子が幸せになってくれればそれでいい


 だから…あの子を不幸にさせるようなことは、阻止してみせる…



 そう…絶対に…





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