第26話 胸の痛み(二宮視点)


 私、二宮朱音は困っている


 如月先輩と二人きりになると、どうにも緊張してしまって、上手く接することが出来ないでいた


「先輩…あの…」

「うん」

「ゴールデンウィークのご予定って…」

「はじめの2日間は、友達と勉強会の約束があるんだ」

「そ、そうなんですね…」

「うん」

「あの…えっと…」

「うん」

「他の日で…空いてる日はありますか…?」

「え?」

「あ、あの!その…い、一日でかまわないので…私と…」

「二宮さんと?」

「はい…ご一緒できれば…」

「う、うん…一日くらいなら大丈夫…と思うけど…」

「けど…?…無理…ですか?」

「いや、うん、大丈夫」


(よかった…)


 ホッと胸を撫で下ろす。断られたらどうしようかと思ってた


 最初は単に私のこと意識させるだけのつもりでいて、けっこうグイグイ行ってたと思うけど、思い返してみると、よくあんなことやってたな、って感じる


「じゃあ…1日でもいい?」

「5月の1日ですか?」

「うん」

「分かりました。ありがとうございます」


 うちの学園はこの4月の月末から、カレンダー無視で連休に入るよう。

 もちろん普通なら平日となる日は学校は開いていて、中に入ることも可能で、自習したり出来るらしい


 それにしても…先輩、見た感じ友達なんていなさそうだったのに、休みの日に一緒に勉強するような人がいたんだ


 はっ…もしかして…


「せ、先輩…?」

「なに?」

「さっきの…一緒に勉強するお友達って、もしかして、三条先輩…です?」

「ううん、違うよ」


 はぁ…なんだ、心配して損した

 もしそうだったら、邪魔しに行ってたかもしれない


「じゃあその日…どうしましょうか…」

「そうだね。俺、あんまり外出歩かないから、よく分からないんだよ。ごめん…」

「そんな…謝らないでください…」


 申し訳なさそうにする先輩に、私の方が悪いことをしてしまったように感じてしまう


「じゃあ本屋さん巡りとか…どうですか?」


 いつも本読んでるから、私はてっきり、如月先輩は読書が好きなんだと思ってた


「本屋さんかぁ…それでいいの?」

「え…」


 え…違うの?

 私は一緒にいられるなら何処でもよかったんだけど、先輩はあまり乗り気には見えない


「いや、せっかくなのに、本屋さんだけで二宮さんはいいのかな、って思って…」


 あ…私のこと気遣ってくれて、それでそう言ってくれた?


(もしそうなら…嬉しい…)


 でも、私も男の子とデートなんてしたことないから、何処に行ったらいいのか全然分かんない


 さすがに、いきなり遊園地はハードル高いよね?私の方が緊張しそうだし。

 じゃあ無難にショッピング?

 いやいや、それが無難なのかどうかも怪しいし、先輩は楽しくないかもしれない


「じゃあ…公園…とかは?」

「え…公園…ですか?」

「うん。学園からは離れてるけど、大きな池のある公園あるよね」

「あ、はい、ありますね」

「この連休中、天気も良さそうだし、そこでのんびりするのとか…って、ごめん、あんまり楽しくないよね…」

「そ、そんなことないです!!」

「え…」

「私…公園…行きたいです…」


 確かあそこの公園、ピクニックしてる人もたくさんいて、池のボートに乗ってイチャイチャしてるカップルもいると聞いた覚えが。

 それなら行かない手はない


「そう?ごめんね、そんなのしか出てこなくて…」

「いえ、本当に…私、公園行きたいです…」

「うん、ありがとう」


 たぶん先輩は私のこと、妹のような感じで接してくれてる気がする。

 それでも、少しはにかんだように笑う如月先輩に、私の胸はキュンキュンしている


(この胸の痛み…もう私、完全に好きになっちゃってるよね…)





 先輩のことを意識し出してから、学校では毎日のように如月先輩のクラスを覗いて、隣の三条先輩と話してる風景を見ては悲しくなり、でも、それでも頑張ってデートに誘ったんだ。たくさんアピールしないと!




 そして迎えた当日


 予報に反してあいにくの雨。

 私は泣きたくなったけど、結局一緒に映画を見に行き、お昼ご飯も一緒に食べ、それはそれで楽しかった。

 何より、待ち合わせ場所で落ち込んでた私に「大丈夫だよ」って優しく声をかけてくれて、その上、頭をぽんぽんしてくれたのが嬉しくて、天気のことなんて私はすぐに忘れ、その日一日をご機嫌で過ごしたのだった



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