第25話 胸の痛み(一之瀬視点)


「じゃあ行ってきま~す」

「優花、気をつけてね」

「うん♪」

「しっかり教えてもらって来なさいよ」

「はーい」


 朝、私が家を出る時、わざわざお母さんが見送ってくれた。

 私は勉強が得意じゃなくて、お母さんにはいつも心配させてたから、この子大丈夫?って気になってたんだと思う。


 玄関を開け、ちょうど私が出て行こうとした時、夜更かししてちょっと眠そうな顔をした弟が、ひょこっと顔を出した


「あれ?姉貴どこ行くの?」

「お友達とお勉強するんですって」

「男とデートじゃなくて?」

「そうよ。優花ももう高校2年なんだから」

「いやいや、逆に高2だから男なんじゃなくて?」

「ちょ、ちょっと!大輝たいき!!」

「はいはい、姉貴、悪かったってば」


 昔は私の後ろを付いて回って「待ってよ~お姉ちゃ~ん」なんて言ってたくせに、生意気なんだから


 そんなことより、急がないと電車に遅れちゃう。早く行かなきゃ




 駅に着いて、無事電車に乗れたけど、ゴールデンウィーク初日だからなのか、結構混んでいる。けど、私は普段電車に乗ることもあまりないからか、少しワクワクしていた。


 早く着かないかな。

 早く如月くんに会えないかな


 …あれ?私、勉強教えてもらいに行ってるんだよね?そんなに勉強好きだったっけ?


 おかしいな…


 …でも、まあいっか




 目的の駅に到着して、改札口に向かって歩いて行くと、向こうに如月くんが見えた


「おーい!!如月くーん!」

「ちょ、ちょっと…一之瀬さん、だいぶ目立ってるよ…」

「えへへ♪ごめんね?」

「う、うん…」


 二人で並んで歩いて、如月くんの案内でファミレスに向かう


「私ね、数学苦手なんだぁ」

「あはは、相変わらずだね」

「そうなの。でも日本史は得意だよ?」

「それも相変わらずだね」

「えっへん!」

「もう、分かってるよ」


 静かな雰囲気で話す如月くん。

 彼と話すのは楽しい。もちろん他の男子とも話すけど、なんだかみんなとは違う。

 私がちょっと高めのテンションでも、普段通りに受け止めてくれて、なんだか落ち着く


「そういえば、昨日の帰り、三条さんと何話してたの?」

「え?ああ、この連休中のことだよ」

「どこかお出かけするの?」

「う、うん…そうなんだ…」


 少し照れくさそうに言う如月くん


(そんな顔…するんだ…)


 なんだか胸がチクリと痛む


 昨日、別れ際に如月くんと三条さんが話してるのを見た時もそうだった。

 如月くんにお友達ができて嬉しいはずなのに、この胸の痛みって…なんなんだろう…


「一之瀬さん?どうかした?」

「え?ううん!なんでもないよ♪」

「そう?」

「うん!」


 なんでもない…のかな…?


 でも、たぶん大丈夫。

 よく分かんないから、たぶん問題ない


「でも、如月くんも三条さんと仲良しになったんだね」

「え?うん…三条さん、よくしてくれて」

「私も委員会一緒で、いつもお世話してくれてるんだよ」

「そうなんだ。三条さん、優しいもんね」


 綺麗に微笑む如月くんを見て、なんだか胸が痛くなる。

 さっきのチクッとする感じのと、似てる気がするけど、でもちょっと違うような…


「でも、三条さんも頭いいよね。一之瀬さんも今度一緒にしてみればいいんじゃない?」



 そう。実は昨日、私は三条さんも誘って三人でやった方が楽しそう、って思った。

 けど、彼女が少し悲しそうな顔をした時、そのことに気付いた如月くんが気遣ってあげて、慰めてあげてるような姿を見た時に…


 うん…どうしてなのか、私は三条さんに意地悪みたいな感じのこと言っちゃったんだ…


 彼女のことも好きなのに…三人の方が楽しいって思ってたのに…




 入学してすぐの1年生の頃、初めは私も如月くんのことは知らなかった。

 というか、大人しくて存在感があまりなくて、席も近かったのに気付いてなかった。

 たまに見かけると、いつも一人で本を読んでて「へ~、本好きなんだぁ」って思って、少し話しかけるようになっていった


 最初は大人しくて、ちょっと素っ気ない返事くらいしかしてくれなかったけど、時間が経つにつれ、今みたいなふうに、私ともお喋りしてくれるようになった


 それが嬉しくて、席が近かったっていうのもあったけど、気が付けばいつも彼の机の所に行って話してた。

 あの頃も今のように、静かに私の話を聞いてくれて、優しい笑顔で応えてくれた


 あの頃は私だけが彼の話し相手で、私しかいなかったのに…今は三条さんがいて…


 三条さんは美人でスタイルもよくて優しくて、学園では美少女四天王なんて呼ばれるくらい。どうしてそこに私なんかが入ってるのかは分からないけど、私とは全然違う



「一之瀬さん?着いたよ?」

「え?あ、うん。行こう行こう」

「何か考え事?珍しい」

「もう!私でもたまには考えることもあるんだよ?」

「ごめんごめん」


 私はこうして彼と話してるのが好き。勉強も分かりやすく教えてくれるし、本当にありがとうって思ってる


 そう…三条さんや他のみんなと同じように、友達として如月くんが好きなの




 そう自分に言い聞かせ、二人でドリンクコーナーに足を運び、如月くんはカフェオレ、私はカルピスソーダを取り席に戻る


 それからは、何故かあの胸の痛みのことなんか忘れて、彼と楽しく過ごしたのだった





 ……………………………………………


 はじめましての方もそうじゃない方も、こんにちは、作者の月那です


 この25話、そしてこの後の26話と27話は三条さん以外の他の三人の、現時点での如月くんに対する想いを、彼女達の視点でお送りします。

 28話からまた、主人公である三条さん視点でお送り致しますので、少しだけお待ちくださいね

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