第24話 天然


 放課後。

 明日からいよいよゴールデンウィークに入るわけだけど、担任の笠井先生の注意事項の連絡も終わり、下校となる


 明日以降の予定の話で盛り上がる教室。

 私は少しみんなと話した後、先に出て行った彼の後を追った


「あの、如月くん…」

「うん、三条さん、どうしたの?」


 結局、普段学校やクラスで話す時は今まで通りで呼び合うことにして、二人きりの時は名前で呼ぶことにした私達。

 やっぱり名前呼びはまだ慣れてないし、めちゃくちゃ照れるというのと、あとはクラスメイトの反応が心配だったというのもある。

 そして何より、二人きりの時だけ、というのも、なんだか秘密を共有してるというか、二人だけしか知らない内緒事があるってことが無性に嬉しくて、楽しく思えた


「三条さん?」

「あ、う、うん…あのね、明日からお休みになるわけだけど、ちなみに…明日はどうするの?」


 そう。如月…いや、そ、颯馬くんと約束してるのは2日間だけ。それ以外の日は何してるのか、どうしても気になってしまった


「明日と明後日は一之瀬さんと勉強する約束なんだ」


 そ、そうだ…浮かれて忘れてた…


「そ、そうなんだ…」

「うん」

「二人で…なんだよね…?」

「そうなるかな」


 私より先に二人きり…ずるい…


「…図書館でするの?」

「ううん。明日から図書館も休館なんだ」

「え?じゃあ、どこでするの?」

「うちの近くのファミレスで」


 …ということは、わざわざ私達の最寄り駅まで来て、そこで勉強するってこと?


「最初はうちに来るって言われたけど、それはさすがにね…」

「当たり前でしょ」

「え…」

「あ…いや、なんでもないよ、うん…」


 つい素で言っちゃったけど、そんなの当たり前よ。ダメダメ、絶対ダメなんだから


 そう思っていると、


「如月く~ん!!」


 …タイミングいいわね、一之瀬さん


「あ、一之瀬さん」

「ねえねえ、明日10時くらいに着くから」

「うん。覚えてるから大丈夫だよ」

「迎えに…来てくれる?」


 …いやいや、そのあざとい上目遣いは絶対意識してやってるでしょ


「いいよ」


 よくないよ!!


「やったぁ♪」


 なんか…ずるい…


 それに今朝のこと…あれって、私一人で勝手に盛り上がってたんだって思ったら、なんだか惨めに思えてきた


(私…何やってるんだろ…)


「三条さん?」

「え…?」

「大丈夫?」


 眉尻が少し下がって、見てるこっちの方が切なくなるような目で、私のことを見てる颯馬くん


「どうして…」

「え?」

「どうしてそんな目で、私のこと…」

「今俺がどんなふうになってるのか分からないけど、そんな顔見たら辛くなるよ」


 …それって、私が今感じてたことと全く同じじゃない…


「私…私ね…」


 ああ…もう私のこの想いを伝えたい。

 あなたのことが好きだと…私だけの颯馬くんになって欲しいと伝えたい


 けれど、それを口に出して伝える勇気が、私にはない…


「あれ?三条さん、どうしたの?」


 そ、そうだった…一之瀬さんもいたんだ…


「ごめんね、なんでもないわ…」

「う~ん…もしかして…」

「え?」

「もしかして、如月くんのこと…」

「ちょ、ちょっと!なにを…!」

「…うん、そっか、ごめんね」

「え…」

「こめんね、知らなかったの」


 …これは…気付かれた…よね?

 まあ、そうなるか。たぶん私が同じ立場でもそうなったかもしれない


「そんな…こと…」

「でもね?」

「うん?」

「たぶん私の方が先だと思うんだ」


 満面の笑みでそう言う一之瀬さんに、私は理解が追いつかず、固まってしまう


(まさか…やっぱりこの子も颯馬くんのことが好きなんじゃ…)


「だって、如月くんと約束したの、たぶん私が先だったんだよね?」

「はい?」

「だからごめんね。三条さんも他の日にしてもらえると嬉しいんだけど」

「はい?」

「え?あの…三条さんも如月くんと一緒に勉強する約束したかったんだよね?」

「あ、はい…」




 そうだ…この子、天然だったわね…





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