第22話 その正体


 翌日。いつもの時間に家を出たけど、結局駅で如月を待つことにした私


 ベンチに腰掛け、ぼんやり辺りを見てるけど、同じ高校の制服の男子を見る度に、私は「如月まだかな…」と待ち焦がれていた


 え…私、そんなにあいつのこと好きなの?

 …いや、うん…実際そうなんだろう…


 もちろん好きなのは好きなんだけど、そもそも好きになったらどうしたらいいのか、どうなればゴールなのか分からない


 付き合えればゴールなの?

 でも、付き合ったからって、いったい何をするわけ?その辺りの線引きがいまいちよく分からないんだよね


 今度二人で一緒に遊びに行くけど、これはほぼデートと言っていいと思う。

 でもまだ私達は付き合ってるわけじゃないんだから、そうじゃなくてもデートはしていいんだろう


 じゃあ手を繋ぐのは?

 …あ、あの…想像しただけで顔が熱くなってるのが分かっちゃう…

 …うん、これは付き合ってからだ


 む~…こんなことになるなら、もっと真剣に恋バナに参加しとくんだった。

 いつも聞き流してたからなぁ…


「三条さん、おはよう」

「はひ!?」

「え…」


 思案に耽っていたからか、目の前の如月に全然気付かなかった


 はわわ…私、変な顔してなかった?


「き、如月くん…おはよぅ…」

「うん、おはよ」


 にっこり微笑む如月に、言うまでもなくキュンキュンする私


(く、苦しい…)


 相変わらず如月の周りだけ、エフェクトがかかったようにキラキラして見える。

 軽く目を擦ってみるけど、うん、やっぱりそのままだ、変わんない


「今日はこの電車なんだね」

「う、うん…」

「あは、もしかして寝坊?」

「ち、違う…けど…」

「そうなんだ。もしかして、やっぱり体調悪いんじゃ…」


 はじめは冗談ぽく話してたのに、私のことを気遣って心配してくれてる


「そうじゃなくて…」

「あの…もし辛いようなら、今度一緒に出かけるの、やめてもいいよ?」

「や、やだ!」


 考える前に、反射的に私はそう言っていた


「え…」

「それは…やだ…」

「うん…ごめん…」


 なんだか気まずい空気が流れる


(どうして私はこうなんだろう…)


 咄嗟に素の自分が出てしまうと、何も出来なくなってしまう


 いつも周囲からの評価だけ気にして、外では優等生で可憐な美少女を演じ、みんなにチヤホヤされて満足してた。

 だから、素の私を知られるのが怖い


「え?そんな子だとは思わなかったな」

「なんだ、猫かぶってただけなんだ」

「けっこうキツいよね」

「見た目だけだったんだ」


 もし、そんなふうにクラスメイトから思われたら…そんなことになれば、それこそ家から出られなくなるかもしれない。

 だからこそ、この仮面を外すつもりはない


 でも…


(本当にそれでいいの?)


 如月に、仮面を付けた、偽りの私を見てもらいたいの?

 もしそれで好きになってもらったとして、それで私は満足なの?


(違う…と思う…)


 でもそれなら、どうすればいいのよ。

 もう…こんなになったことないから、本当に訳分かんないんだけど


「あれ?お姉ちゃん?何やってんの?」


 この聞き慣れた声は…


「沙織…?」

「なんでまだいるの?」


 自転車に跨り、キョトンとした顔でこちらを見ている妹に、


「それは…」

「ん?その人は?」

「あ!あの…これは…そういうんじゃなくて…たまたま…」

「ははぁん…」


 何かを察したようにニヤニヤする沙織に、何も言えなくなってしまう


「おはようございます。私、そこの三条伊織の妹の、沙織です」

「あ…三条さんと同じクラスの、如月です」

「如月さん、よろしくお願いします!」

「う、うん…よろしく…」

「如月さんこの辺りに住んでるんですか?」

「ああ、うん、少し先の、コンビニの向こうのマンションに」

「じゃあ、うちとそんなに離れてないです」

「そうなんだ」

「はい!」

「お姉さん似だね」

「へへ、よく言われるんです」

「やっぱり」

「はい!」

「朝から元気だね」

「如月さんは眠そうですね?もしかして、朝弱い人です?」

「はは、そうなんだよね」


 え?なんで普通に沙織と話してるわけ?

 あんた、人見知りじゃなかったっけ?


「あ…お姉ちゃんが後で怖いことになりそうなんで、そろそろ行きますね」

「ちょ、ちょっと!」

「如月さん、それじゃあ」

「うん、またね」

「はい!」


 な、何よ…何なのよ…

 沙織は後でシメるとして、なんでそんなに普通に話してたのよ


「もう…何よ…」

「三条さん?」

「…人見知りするんじゃなかったの?」

「ああ、そうなんだけど、沙織ちゃん、三条さんに凄く似てたから、それで」

「え…」

「なんて言うか…三条さんと話してるような感じに思えて、つい…ね…」

「そ、そうなんだ…」


 確かに私達姉妹は、子供の頃からよく似てると言われ、今に至っている。

 家だと私もあんな感じで話してるけど、学校ではそういう面は見せていない


 私と似てるから話しやすかったと言われ、嬉しくなるのと同時に、何かモヤモヤするものが残るのは何故だろう


「沙織ちゃん、元気で可愛らしい子だね」


 いたって普通にそう言う如月に、やっぱりモヤモヤしてしまい、そして、その正体に気付いてしまう


「え?どうかした?」

「どうもしないけど…」

「けど…?」

「な、なんでもないよ…」



 言えない…



 私より先に「沙織ちゃん」って名前で呼ばれたことが嫌だったなんて、そんなの言えるわけなかった





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