第20話 母性本能


 明後日から、いよいよゴールデンウィークに突入する。

 神楽坂くんたちからの誘いは「ごめんね、予定があるの忘れてて…」と普通に断った


 でも考えてみれば、確か如月が空いてると言ったのは3日と5日の2日間。

 それ以外の日は、私も暇することになってしまうけど、逆にあいつはそれ以外の日は全部予定があるって言うの?


 おかしい…

 いくらなんでも他の日は全部、一之瀬さんとお勉強ってわけじゃないよね?



 お昼休み。いつものように一人で出て行こうとする如月に、聞いてみる


「如月くん…ちょっといい?」

「うん。いいけど」


 声をかけたのはいいとして、この場で「ゴールデンウィークの予定って、どうなってるの?」なんて切り出してしまえば、周りから興味津々で聞き耳を立てられるのは間違いない。

 しかも私はみんなからの誘いを断っているのだ。そんな私が如月に予定を確認すれば、「え?三条さん…まさか…」って思われて、ちょっとした噂になってしまうかも


 まあ…実際好きになってるんだし、誤解ってわけじゃないんだけど、やっぱりそういうのは慣れてないというか、恥ずかしいというか…


「えっと…」

「大丈夫?みんな後ろで待ってるけど…」

「え!?」


 振り返ると、みんなお弁当を持ったまま、私達のやり取りを眺めている


「そ、そうね!ま、また今度…」

「うん…」


 そのまま如月は出て行くけど、少しモヤモヤする。だって、私とのお出かけ、楽しみにしてくれてたんじゃないの?


 あれから特に私達に変化はなく、強いて言えば普通に挨拶するようになったくらい。

 強いて言ってそれだけって、それもどうなのよ…


「三条さん?」

「はい?」

「如月くんに用があったんじゃないの?」

「たいしたことじゃないから…」


 とりあえず放課後、帰りに少し時間を取ってもらうようにLineで連絡して、いつも通りを装い、お弁当を食べることにした




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 帰りのホームルームの後、少しクラスで雑談してから、学校を出て駅に向かう。

 私は早足で向かいつつも、やっぱりモヤモヤは晴れていない


 駅に着くと、如月は外で落ち着かない雰囲気で待ってくれていた


「如月くん、お待たせ」

「あ…三条さん」

「じゃあ、行きましょうか」

「うん」


 学校の近くの適当なお店で待ち合わせしたりすると、他に人に見られてしまう可能性が高いので、駅で落ち合い、向こうに帰ってから、そこで話すことにしていた


 でも…隠す必要って、あるのかな…


 別に悪いことしてるわけじゃないのに、なんでこそこそしなきゃいけないんだろう。

 もちろん、如月がそうしてほしいって言ったわけじゃなく、私がそう伝えたからなんだけど…



 駅に到着し、近くのお店に入り席に着く。

 飲み物だけ注文して、私はぼんやりして考えていた


「三条さん…この休み中の話だよね?」

「え?…あ、うん、そう」

「ごめんね、学校だと、なかなか話しかけるのに勇気がいって…」

「それならLineでもいいのに…」

「うん…女の子とLineとか、ほとんどした事なくて…」


 ほとんど…ということは、ゼロじゃない


「あと…私以外だと、誰とやり取りしてる?やっぱり一之瀬さん?」

「うん。あとは四方堂先輩」

「え…」


 一之瀬さんはまあ分かるとして、なんで四方堂先輩…?


「せ、先輩とは…どんな…」

「だいたいは学校のこととか、あと、ごはんちゃんと食べてる?とか」


 完全にお姉さんじゃないのよ


「一之瀬さんは?」

「ん~…一之瀬さんはほとんどやり取りしてないから」

「そうなの?」

「うん。今度の勉強会みたいな、そういう予定でもない限り、普段はしてないんだ」


 そうなんだ…じゃあ、やっぱり一之瀬さんは普通に友達としてだけで、恋愛感情みたいな感じではないのかな…


「その分、学校で話すから」


 前言撤回。やっぱり油断できない


「えっと…あと、二宮さんは?」


 そう。問題はこいつ。

 絶対グイグイ来てるはず


「たまに学校で話すけど、LineのID、交換してないから」

「そうなの?」


 え?意外。そうなんだ


「あの子大人しいよね」

「そう?」

「うん。ちょっと俺と似てるかも」


 いやいや。そんなわけないでしょ。

 猫かぶってるだけだよ。如月、騙されるな


 とりあえず、三人の動向はひとまず置いといて、問題はここから


「あの…お休みの3日と5日…なんだけど…どうしよっか…」

「うん…俺、こっちに引っ越して来てから、誰か友達と遊びに行ったりしたことないんだ。だから、ちょっとどうしたらいいか分かんなくて…」


 そっか。家庭の事情で引っ越して来たんだったよね。それなら、子供の頃からの友達もいないだろうし、大人しい如月には、新しくみんなの輪に入って行くっていうのも、難しかったんだろうな


「でもね…」

「うん?」

「だから、こういうの初めてで、この前楽しみにしてる、って言ったのは本心なんだ…」

「うん…」

「学校だと、あんまり話しかけられなくてごめん…ちょっとまだ慣れてなくて…」


 申し訳なさそうに、上目遣いで私のことを見てくる如月にドキドキする



 これ…母性本能くすぐられてる?

 え?ずるくない?




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