第18話 アイコン


 LineのIDを教えてもらって、その日は大満足で家に帰り、沙織に「お姉ちゃん…ニヤニヤし過ぎなんだけど…」と引かれたのはここだけの話だ。

 だって、嬉しかったんだからしょうがないじゃない…



 そしてあれから数日が経ち、ゴールデンウィークはすぐ目の前まで迫っていた。

 如月とLineのやり取りをしたのは、お互い最初に『よろしくお願いします』と送りあって、その後は全くなし


 そりゃ、如月はこういうのに慣れてないだろうから仕方ないのかもしれないし、私も好きな相手とメッセージのやり取りとかしたことないし…

 下手したら面と向かって話してるわけでもないから、思ってることをそのまま書いて送っちゃうかもしれない。

 そう考えたら、気軽にメッセージとか送れないわけで…


 そんな葛藤を続けて今に至るんだけど、いつまでもそうは言ってられない


 このままだと連休中に一度も会えないかもしれない。

 そんなの…そんなの寂しい…



「三条さん。このゴールデンウィークはどうするの?一緒にどこか出かけない?」

「そ、そうね…どうしようかな…」

「いいなあ。私達も一緒に行きたい」

「あはは。賑やかな方が楽しいよね」


 朝のホームルームが始まる前、神楽坂くんに声をかけられ、それに乗っかるようにクラスのみんなも周りに集まって来たけど、隣の男は我関せずといった感じで、ぼんやり外を眺めている


 …そうだよね。如月が私のこと誘ってくれるなんて、ありえないよね。

 やっぱり私から行かないと…


 その場は「考えとくね」と曖昧に答え、なんとかやり過ごしたけど、私は隠れてLineを起動し、如月にメッセージを送った


『ゴールデンウィークはどうするの?』


 バイブの振動で気付いたのか、如月はスマホを確認すると、一瞬だけ私の方を見て、そして返事を送ってくれた


『一之瀬さんと約束があるんだ』


「なんですって!!」


「え…三条さん、急にどうしたの?」

「何かあった?」

「なんか怒ってない…?」

「あはは…だ、大丈夫♪」

「そう?」


 つい声に出てしまい、みんなが不安そうにしてたけど、これは事故よ。

 うん。だからこれは仕方ない


 しかしまた、なんであの天然と…

 …ま、まさか!

 本当はもうすでに…付き合ってたりする?

 だからあんなに距離が近いの?

 でもでも、もし一之瀬さんと付き合ってるなら、間違いなく学園中で噂になってるよね


 それなら、どうして…


「む~…」


 ついジト目で如月を見てしまう。

 すると、Lineの通知音が静かに鳴った


『前に勉強会の約束したから、それで』


 私の心境を察してか、メッセージを送ってくれた。チラッと隣を見ると、その表情はどこか苦笑いしてるようにも見えて、そんな顔見るのも初めての私は、少しドキドキしてしまう


(くっ…カッコいいんだけど…)


 たぶん私が好きになってなければどうとも思わないんだろうけど、今は些細なことでも敏感に反応してしまう


 それはいいとして、問題は一之瀬さんだ


 確か「教えてよ~♪」みたいなノリであざとく如月に頼んでたっけ?

 でも、休み明けじゃなかった?


 私はすかさずLineを送る


『前に聞いた時、休み明けって言ってなかった?』

『うん。そうだったんだけど』

『だったけど、なに?』

『休み中、俺が暇なら会えないか、って』


 なんだと…?…あの天然め……


『毎日会うの?』

『さすがに毎日は一之瀬さんに悪いよ』


 なんであの女に気を使ってるのよ


『じゃあ、空いてる日もあるの?』

『あるよ』

『いつ?』

『3日と5日は予定ないよ』

『じゃあその日は私と一緒に遊ぼうよ』


「え!?」


 隣で如月が驚いたように声を上げたから、みんなもビックリして視線が集まる


「あ…な、なんでもないです…」


 きまり悪そうに俯く如月だったけど、よくよく考えると、私も恥ずかしくなってきた


 だって、普通に誘っちゃったんだもん…

 だからLineは注意しなきゃ、って思ってたのに!私のバカバカ!!




 如月の様子を伺うと、まだ赤くなって俯いてるけど、チラッと私の方を見て、たぶん私だけに聞こえるくらいの小さな声で、


「いいの…?」


 それは…一緒に遊びに行ってくれる…ってことでいいんだよね?


 心の中でガッツポーズする私だったけど、実際には「ん…」と、小さく、コクンと頷けただけで、ニヤけそうになるのを我慢するので精一杯だった




 でも、やっと普通にLineでやり取り出来た


 まだたった数回のやり取りだけど、如月のアイコン、たぶんどこかで見たことあるアニメのロボットか何かなんだけど、そのアイコンとメッセージを眺めてるだけで、ちょっと幸せになる私だった





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